麻雀店経営サポート あなたのお店を未来に引き継ぐ 風営法と事業承継について 個人許可店・法人許可店に分けて わかりやすく徹底解説! 文:行政書士/社労士・荒木康宏 | 麻雀新聞

麻雀店経営サポート あなたのお店を未来に引き継ぐ 風営法と事業承継について 個人許可店・法人許可店に分けて わかりやすく徹底解説! 文:行政書士/社労士・荒木康宏

■はじめに

最近相続の話がよく取り上げられています。ほとんどは、相続税の話です。ちなみに、実際に相続税を支払う割合は、発生相続全体の1割位しかありません。ほとんどの人には関係のない話です。しかし、相続があると税金を払わなければならない思考になっているので、大抵の人は税金をどうしようとオロオロします。

そこで、銀行や保険屋が本来必要のない金融商品を売りつけに来ます。怖いですね。必要のない商品を買うことほど無駄なことはありません。いつかは、この紙面で相続の特集を組んでみたいなと思います。

今回は、風営法許可と相続という観点から解説してゆきたく思います。あくまで許可と相続なので、相続の基本原理等は割愛します。

■相続と許認可

麻雀店は、公安委員会から風俗営業許可を受け営業をしています。この許可は、当然のことですが、許可が必要なくなったときは、返納しなければなりません。

通常、店を閉める場合には、廃業届を提出します。新規申請と異なり、廃業届の提出は警察も煩わしいことは言いません。許可証と届出書を提出するだけで済みます。これは、他の許認可も同じで、廃業届を提出する際にはあっさりとしています。廃業内容を細かく聞かれたりはしません。

では、経営者が亡くなり相続人が麻雀店の経営を受け継ぎたい場合はどのような手続きが必要になるのか、以下個人の場合と法人の場合、それぞれ場合分けしてみていきましょう。

余談ですが、高尾山の山頂に何軒か蕎麦屋さんがあります。そこのマスターから聞いた話ですが、店の権利は売却ができないそうです。また、相続でしか権利を引き継ぐことが出来ないそうです。この点は、風営法と相続に似ているところがあります。

■個人許可と法人許可

風営法や他の事業の許認可も多くは個人許可と法人許可のどちらかに分けることが可能です。当然ですが、1つの麻雀店に対しては、個人か法人かどちらかを選択しなければならず、両方の許可を得ることはできません。申請時に添付書類が異なるだけで、どちらが有利だったり許可が早く出たりとかはありません。

【個人許可店】

風営法許可を個人で取得している店舗です。個人許可は、その人に対して許可が出されているので、許可と人を分けることはできません。一身専属的なものです。ですから、許可事業の売却を事前にすることはできません。

どうしても売却したいとなると、違法ですが名義料を支払ってもらい名義貸しをしながら事業を売却するしかありません。

この場合、売主が途中で死亡したら、名義人がいなくなるので廃業するしかありません。仮に、この状態で営業を継続すると、名義借り兼無許可営業になってしまいます。

では、個人許可の経営者が事業を売却したい場合、良い方法はあるのでしょうか?

可能なのは、個人から法人に許可を変更してから売却する方法です。個人名義の売買はできないので、これしか方法はありません。いきなり個人許可から法人許可への変更はできません。個人事業主が法人の代表者になり個人と法人に同一性が見られても、変更届1枚で変更可能である訳ではありません。

原則的な流れからすると、個人を廃業して新規に法人の許可申請をします。ここで問題となるのが、標準審査期間の55日です。法令に従うと、個人廃業後に新規許可を申請して55日待った上で新規許可を貰うことになります。

となると、約2か月間の無駄な経費が発生してしまいます。それではあまりにも経済的損失が大きいため、警察でも管轄によっては、個人の許可で検査日まで営業をさせてあげて、検査日以降に廃業届の提出をすれば良く実質休業期間を2週間くらいにしてくれるところもあります。

このようなやり方は、管轄により扱いが異なるので、個人から法人への転換を考えていて実際にそうする際には、事前の相談をして下さい。

個人営業を廃業し法人新規許可を取得したあとは、売却相手を代表取締役に変更する登記をして再度管轄する警察の生活安全課へ役員の変更届を提出すれば必要な手続きは完了です。

個人でなく、法人営業にすれば、法人という箱に対して許可が出されるので箱の中身を変えれば許可を失わずに営業をすることが可能です。

【法人許可】

法人許可の際には、個人と異なり手続きは難しくありません。法人という箱に許可が付与されているので、箱の中身を変更する作業だけです。前述のとおり、登記の変更と変更届の提出を管轄する警察の生活安全課に提出するだけです。基本的には、法人許可は中身が入れ替わればその都度変更届を提出するイメージです。最初から売却ありきで事業を考えている人は、法人許可が多い気がします。

■相続と風営法許可

次の世代へ事業を引き継がせる、麻雀事業部門のみを独立して事業を展開する場合は以下の方法が有効です。これも個人と法人で分けることが可能です。

【個人許可】

事業を2代目3代目と引き継がせる際には、親子であれば風営法は相続を認めています。ですから、言い方は変ですが、生前に特に何もしないでいても死後の相続の届け出を警察にすれば営業の継続をすることが可能です。

ただ、生前に名義を変更したいとなると、個人許可の廃業と個人許可の新規申請となります。

個人許可の場合には相続以外に名義変更の例外を認めていません。相続に関する法解釈は、民法を基準とするので、仮に、養子縁組をしているのであれば、許可の承継の対象にはなりますが、許可のために養子縁組をするのは現実的ではないでしょう。

この場合注意しなければならないのは、「相続人が死亡してから60日以内」に申請をしなければならない点です。相続人だからいつでも申請が可能である訳ではありません。

細かい話ですが、相続放棄は「相続を知った時から3か月以内」と規定され、状況に応じて知った日の起算点が異なることがありますが、風営法の場合には、除籍謄本の死亡日が基準になります。

1日でも申請が遅れると当然ですが許可は失効してしまい新規取り直しになります。新規申請時に、店舗の近くに保護対象施設があると許可をとることができなくなるので注意が必要です。

申請に必要となる書類は以下のとおりです。

◎相続承認申請書

◎本籍記載の住民票の写し

◎人的欠格事由に該当しない旨の誓約書

◎市区町村長の発行する身分証明書

◎申請者と被相続人の続柄を証明する書面

◎相続人が複数いる場合は、その者の氏名及び住所を記載した書面並びに申請者に対する相続人すべての同意書

【法人許可】

法人許可の場合は、前述のとおりで、箱の中身を変更すれば良いことになります。特に難しいことはありません。登記法上代表取締役の死亡による変更登記をすべき日数が問題になりますが、遅れても大きなペナルティはありません。

代表取締役が死亡したあとに、速やかに代表者変更登記をして変更届を警察に提出すれば完了します。当然、相続人が代表者変更に就任しても構いませんし、売却し、外部の人間を代表取締役に就任させても構いません。

では、少し考え方を変え、総合的に事業を営む法人が麻雀部門だけ切り離して尚且つ現在ある許可を引き継がせることは可能でしょうか。これも可能ですが、順序を間違えると新規取り直しになるのが要注意です。

法人が麻雀部門を切り離して尚且つ許可も引き継ぎたい場合には、「分割承認申請」を管轄する生活安全課に対して行います。流れとしては以下のとおりです。

①分割承認申請

②分割の承認受理

③法人分割の公告

④法人分割の登記(分社)

⑤法人分割完了の届出

となります。特に難しそうなことは無さそうに見えますが、結構手続きは面倒で時間がかかります。すぐにできるものではありません。

この方法を知ってはいるが時間がかかるものと知らない方も多く、時間に余裕をもってやらないと結局諦めることになってしまいます。

また、気を付けなければならないのは、分社ではなく新たに法人を先に作りその法人に許可を移行できると考えている方もお見受けしますが、あくまでも分社なので、先に法人を作ってしまうとこの方法は使えません。ですから、この方法は順序だけ間違えないようにしてください。

この分社ができるのであれば、吸収合併も出来るのではないかと思われるかもしれませんが、もちろんできます。これも上記の①〜⑤の手順と変わりません。手順を間違えると許可の引継ぎができなくなるのも変わりません。

■保健所

麻雀店の中には、保健所から飲食店営業の許可を取得している店舗もあると思います。保健所も考え方は風営法許可とほとんど同じです。ただ、保健所は、風営法許可のように厳しくないので、そこまで神経質になる必要はありません。死亡に伴い新規取り直しになったとしても、風営法のように立地要件はないので、不許可になることはまずありません。

■その他

ここまで解説してきたように、風営法と相続は個人営業であるか法人営業であるかで大きく異なります。事業承継や将来の売却を考えた場合には法人経営で申請するのが有益であると言えます。ただ、法人経営の場合、法人の価値により株価評価が変わることがあります。

風営法の許可だけを考えると、変更登記と変更届の提出をすれば良いですが、相続の観点から、仮に法人の価値が高い場合、株価と相続税の問題も出てくる可能性は高いです。この点は頭の片隅にでもおいておく必要があると思います。前述のとおり、相続税のかかる相続案件の割合は比較的少ないですが、株価評価と相続税は落とし穴になることもあります。事業承継の特例を使うこともできますが、これは要件が厳しく適用できないこともあるので、注意が必要です。

文:荒木康宏

荒木行政書士・社労士事務所

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