【追憶の麻雀】第82回「阪神大震災の現地報告」 | 麻雀新聞

【追憶の麻雀】第82回「阪神大震災の現地報告」

追憶の麻雀

麻雀新聞第238号 1995年(平成7年)5月10日

阪神大震災の現地報告

震災地を歩く

 

3月15日午後、谷掛洗・兵庫県連理事長とともに、JR大阪駅から山陽本線の新快速で住吉駅(神戸市東灘区)へ向かう。

車窓から外を見ていると、尼崎市内から、瓦の落ちた屋根に青いビニールシートをかぶせてある住宅が目に付くようになる。そして、西宮市、芦屋市と進むにつれて、倒壊した住宅が多くなる。傾いたビルもある。

テレビで見るのと感じが違うのは、大きさのせいだろう。民家やビルは、実際には自分の体の何百倍も何千倍も大きいのだ。普通に立っているべき建物が目の前でつぶれたり、傾いたりしているから、よけいそう感じる。特に、隣同士で無傷に見える家と倒壊した家が次々に現れると、自分の平衡感覚が狂ってしまったようだ。

住吉駅に到着。ここから六甲道駅をはさんで灘駅までは不通だ(その後、4月1日に開通)。電車を降りた人々は急ぎ足で代替バス乗り場へ。われわれはタクシーで三宮へ向かう。

電車より見る位置が低く間近だから、壊れたビルがすごい迫力だ。「2ヵ月たって、道路際を片付けてあるから、きれいなもんですわ」とタクシーの運転手。国道2号と43号がぶつかる摩耶交差点では、国道をまたぐ歩道橋が折れて落ちたという。

三宮でタクシーを降りる。駅前のそごうデパートは倒壊していないものの、見るからにメチャメチャ。しかし、駅周辺を歩く人々の表情は平和そうに見える。谷掛氏の案内で駅の北側の繁華街へ出る、レンガづくりの歩道は、モグラが掘ったようにあちこち盛り上がり、デコボコ。集合ビルが林立する飲食街は、所々に解体作業の作業員がいるだけで、ひっそりしている、細い路地の片側に寄って写真を撮った後、ふと振り返ってゾッとした。今まで背にしていたビルは半分傾いて、崩れた壁が今にも落ちそう。

一見なんでもなさそうなビルでも、建て直しをしなければならないという谷掛氏の話を聞いても、どうも実感がわかない。

駅の北側から南側へかけて一通り見て回り、『六甲クラブ』のオーナー、桑原省三さんの話を聞く。

一方、JR神戸駅前の『光』(吉田文次郎さん経営)では、まだ水道が通らない頃、常連客がきて、「水が出ないから」と断ったところ、水を持参で再びきて遊んでいったという。

次に訪ねたのは、用具販売の神戸マツオカ。長田区の倉庫が、あの火災で全焼し、3000万円近い損害を出したが、ようやく融資の目処も付いた。咲村康晴社長は、大阪からの救援物資の配布に困っていた谷掛理事長を助けて、夜中の2時までバイクで走り回ったという。

その夜、谷掛氏、咲村氏を交えて食事をしながら、小口琴路さん(葺合組合書記・広報担当)の話を聞く。

3月16日、覚悟はしていたものの、朝から雨。昨日、咲村氏から「阪神・岩屋駅前(灘区西部)で、真っ二つに折れたビルの折れ目からマージャン店が見える」と聞き、地図では三宮から2㎞強なので歩いて行くつもりだったが、ホテルで神戸新聞を読むと、三宮から岩屋の一つ先の西灘まで阪神電車が通っている。

ホテルから三宮駅まで坂を下る。ホテル周辺はほとんど被害がないが、下るにしたがってひどくなる。ビル倒壊の危険のため通行止めになっている場所が多い。レンガの歩道もあちこちに亀裂とデコボコ。

雨の中、撤去中のビルあり、つぶれたままの木造建築あり。途中、グニャグニャに折れて鉄筋がむき出しになった電柱が転がっている。三宮駅周辺を歩く人々の顔は、昨日と違って、どこか疲れた感じ。

阪神電車は、10分に1本。岩屋駅は二つ目だから、あっという間に到着。

駅のすぐ横にその建物はあった。4階建てのビルが2階の床の辺からポッキリ折れ、上の部分は完全に離れて横倒しになっている、2階がマージャン店だったことは、イスの残骸らしき物と、手前のガレキの山のひしゃげた袖看板でようやく分かる程度だ。雨は本降りになって、傘を差したままの撮影はやりにくい。ここから北の方向へ上り、JR灘駅へ向かう。

駅の北側へ出るには少し離れた地下道へ迂回しなければならない。駅前の代替バス乗り場には6~7台のバスが止まっており、長蛇の列ができている。よく見ると延々とつながっていて百人のケタを超えるのではないかと思われる。相変わらず雨は本降りだが、中には傘がなく、タオルを頭にのせている人もいる。

駅北側から阪急・王子公園駅の方へ上るが、被害はさほどでない。東へ回っても、同様。JRの跨線橋を越えて再び南側へ出ると、被害を受けていない建物がポツポツという、ひどい状態。六甲の山並みは雨にけぶっている。

国道2号線へ出て東へ。国道沿いのパチンコ店はガラガラ。歩き始めて約1時間、くたびれてきた。背のリュックと首から下げたカメラが肩に重い。この辺で、道を間違えたことに気付く。阪神の線路を目指していたはずなのに、はるかに南へきている。

再び国道の北側へ。喫茶店に入り、あまり食欲はないが、遅い昼食をとる。全身汗でびっしょり、靴の中も雨でグチャグチャだ。足も重い。しかし、地震で肉親や家をなくした人たちのことを考えれば、泣き言を言っていられない。

谷掛氏からもらった地図には、被害が報道された町名に印が付いている。JR六甲道駅周辺の被害が多いので、そこへ向かうことに決める。

JR線路を目指して北上。途中、阪神の高架線路が切断されているらしい所を通過し、警備員に確認する。公園には避難者のテントがあり、ビニールの買い物袋を下げた傘のないジャージ姿の人たちとすれ違う。

復旧工事に忙しいJR高架線路にぶつかり、線路づたいに東へ行く。六甲道駅へ近付くにつれ、建物の被害が大きくなる。道路のあちこちに青いシートを組み合わせたテントが張られているが、雨を完全には防げないだろう。

六甲道駅の南側は、健在の建物がほとんどないほど、ひどい。辺り一帯が木造建物の残骸の山で、あちこちに供えられた花が雨に濡れている。火災の跡もある。

駅前で「麻雀」の看板の付いた建物を撮っていたら、「関係者以外は困る」と警備員に文句を言われ、「業界新聞です」と説明。

駅の北側へ出ると、あくまで外観だが、対照的に被害が少ない、雨はほとんどやんだ。約4時間歩いてくたびれ果て、汗と雨で全身ぐっしょりだ。タクシーで三宮へ戻る。その晩、谷掛氏夫妻と食事し、夫人の経営する三宮のスナック(全壊)の話を聞く。

3月17日、曇り、午後雨の予報だが、今にも泣き出しそうな空。疲れが取れていない。足も痛い。靴はまだ乾き切っていない。

テレビからは、避難所生活者の代表の「行政はわれわれを人間扱いしていない」という話が流れる。では、自分は何をしているのかと疑問がわき、気が重い。

谷掛氏が作成した組合別被害状況表を見て、被害の大きい長田区と西宮市へ行くことにする。

新長田駅南側の広大な焼け跡を歩く。すでにガレキが撤去され、市の建築計画の看板が掲示されている広い空き地もある。昨日と同じようにガレキの山にマージャン店の形跡がないかと探し回るが、見付からない。時々雨が落ちてくるが、面倒だから傘はささない。

駅の北側に出る,こちらにも広大な焼け跡。4メートルほどの道路を挟み、片側は軒並み全焼、反対側はほとんど無傷の商店街がある。その中の「神戸がんばれコーヒー」と染めぬいたノボリのある喫茶店へ入り、朝昼兼用の食事をする。中年と初老の女性が朝鮮語を交えて「がんばらな、あかん」と話している。

東側へ回るが、片付いた空き地が多く、マージャン店らしきものは見当たらない。市場の入口には「がんばろや!WE LOVE KOBE」「よみがえれKOBE!がんばれ神戸っこ」と印刷した横断幕が掲げてある。この横断幕は市内至る所にあった。

駅へ戻る途中の1軒の家に避難先を書いた張り紙があり、脇の「犬小屋 豆川所有です」と書かれた小屋には、ビーグル犬が一匹。飼い主と一緒に避難できない事情なのだろう。

次の目的地、西宮へ行くため新長田駅で1時間に3本の電車を待つ。駅前の傾いたビルは解体作業中で、ガラスの落ちる音が雨のやんだ空気の中に響く。

この後、JR西ノ宮駅から南へ阪神の踏切まで、引き返してJR駅の北側、そして阪急の西宮北口駅まで歩いたが取材対象になる現場は見付からなかった。

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