麻雀の社会学-3 <東大卒業論文> 井出洋介

麻雀の社会学-2<東大卒業論文>の続き。

三、サラリーマンの麻雀

一流企業の課長三百人が、いま自由時間に最も燃えるもの、というアンケート(※1)でべストテンが表のようになっている。麻雀は、ゴルフとともに他を大きく引き離す支持を得ている。他のアンケートで、麻雀が一位になったのもある。これだけのことからもわかるように、サラリーマンにとって麻雀の占める位置が相当上位であることはまちがいない。すでに述べたように、麻雀人口で最も大きな割合を占めているのもサラリーマンであるし、珍ルールもサラリーマンが考案したものが多い。だが、今日におけるサラリーマン麻雀に対する評価は、決してかんばしいものではない。というのも会社、企業内における、あるいは 社会に対するウサを晴らす手段と して、酒と同様に麻雀をするのだという見方が多いのである。つまり、現実から逃避するための不健全なもの(※2)だというのだがこれは麻雀に対する正当な評価とは思えない。ウサ晴らしであろうと、やって楽しいからする麻雀なのであり、したがって社会が申し分のないものだとしても、やはり麻雀は行なわれるであろう。まずレジャーの一つとして評価することから始めなければならないのである。

表2

1位 ゴルフ 45.3%
2位 麻雀 34.5%
3位 テニス 15.5%
4位 つり 12.6%
5位 パチンコ 11.5%
6位 楽器演奏 9.0%
7位 日曜大工 8.6%
8位 ジョギング 6.5%
9位 読書 5.4%
10位 囲碁 5.0%

 

サラリーマン麻雀とひとことで言ってもいくつかの種類がある。文字通りサラリーマン同士が卓を囲むほかに、いわゆる「接待麻雀」もこの範疇に入れられるだろう。そして、この接待麻雀や、上司と打つ時にへつらいながらする麻雀は、「ゲーム」として、あるいは「レジャー」としての麻雀から離れてしまう。このあたりにこそ、サラリーマン麻雀の悲哀があるのである。

サラリーマン麻雀の平均レートは千点百円であるが、御祝儀ルールなどによるインフレ化のため、馬鹿にならない金額のやりとりも出てくるしそのためにサラ金の世話になるなどという話もよくあるが、この辺がギャンプルとしての麻雀の悲しい面である。レートをあげるなどのインフレ化をすすめ、射幸心ばかりかき立てるのはギャンブルの最も病理的なところだが、サラリーマン麻雀の場合、たいていは仲間うちなのだから、感情的にならない範囲のルール、レートでやるべきなのである。

サラリーマン麻雀には限らないが、自らの意志で参加し、楽しみ、気分よく終わることができなければ、それは「レジャー」とは呼べないだろう。その点からも、過度のインフレ化は考え直さなければならない。

【注】

※1 「現代ピジネスマンのフリータイム考」 日本楽器製造 一九七八

※2 この点については後述の「ギャンブル考」で考察する

 

四、女性の麻雀

女性雀士の数は、まだ全麻雀人口の1%にも満たないが、ここ数年確実に上昇している。その大部分が主婦で、子供がある程度大きくなった後、趣味の一つとして始めるケースがほとんどのようである。女性の場合、若い時に覚えたとしても結婚して子供ができるとやはり、麻雀をするだけの時間的余裕を持てないのが、実情のようだ。

最近の女性の麻雀熱は麻雀教室の増加にもあらわれている。日本麻雀道運盟(※1)や日本牌棋院などの団体が麻雀教室を開設しているほかに、最近、デパートがスポンサーになって開かれる教室(※2)がふえていることは興味深い。男性の麻雀大会のスポンサーには、麻雀用具会社やスポーツ新聞社、出版社くらいしかつかないのが現状だが、今後女性麻雀がもっと盛んになり、レベルアップした大会やタイトル戦(※3)が行なわれるようになると、デパートがかなりの額の援助をすることまで考えられる。というのも、デパート側としては、最大の利用客である主婦をつかむ格好の機会になるのだからである。

女性麻雀が盛んになれば、今度は家族麻雀も今よりも発展してゆくだろう。麻雀はそもそも中国における発祥の過程でも「団欒のもてなし」のニュアンスが濃いものだった(※4)と言う。その意味からは、家庭麻雀こそが麻雀の原点であり、それはまた、麻雀がギャンブルとしてよりもゲームとしてその存在価値を持つということになり、健全娯楽として認められることにつながってゆくと思う。

【注】

※1 日本麻雀道連盟は、一九七八年から女子部が独立した。

※2 「三越レディスクラブ麻雀教室」、「東武友の会女性麻雀教室」、「小田急麻雀教室」

※3 「女性麻雀選手権大会」 (プロ麻雀主催)などがある。

※4 「家庭マージャン」週刊大衆増刊 前掲書。

 

五、雀荘の現状

前述のように、雀荘の数はここ数年急速にふえ、三万五千軒ほどになっている。東京だけでも一万軒にあとわずかという数であり、これは菓子、パン販売業に次ぐもので、八百屋をしのぐ数である。はた目から見れば、開業さえすれば、あとは黙っていても客が来て場代を置いていってくれるのだから、楽に儲って、レジャー産業の花形のように思う人もいるかもしれない。ところが現実はそうでもない。麻雀人口がふえても、それ以上の割合で雀荘がふえてしまったため、過当競争というのが現状である。雀荘の軒数が減っていないのでわからないだけで、実際には経営者が代わっているところもかなり多い。

このような状態になった原因は経営者の安易な開業が一番にあげられる。そればかりでなく、顧客の開拓、サービスの改善その他あらゆる点で、経営者側の研究熱心さが足りないようである。

麻雀業者には全国麻雀業組合総連合会という組合があり、その末端組織が地区別組合である。これには業著の八割以上が加入していて、業者間の親睦、所轄官庁との連絡、営業指導、物品の幹旋、共済関係の事業などが目的となっているが、今のところ自分の店のことは考えても、業界全体を見通したり、団体意識を持つといった業者が少なすぎるようである。組合の上部では、麻雀のイメージアップなどを考えて、競技麻雀団体「全国麻雀段位審査会」を発足(昭和四十八年)させ段位を認定したり、大会を開いたり、タイ トル戦に代表を送るなど盛んな活動をしているが、末端の小規模な雀荘経営者にはなかなかそういった意識が芽生えないようである。

雀荘にはまだ暗いイメージが残っているのだから、麻雀業者が自ら積極的に健全娯楽としての麻雀をPRし、さらに雀荘の健全性、明朗性、安全性を証明してゆかなければならない。そのためには、悪質な客は入れないとか、店舗自体も明るいものにするなどの工夫が必要である。

そもそも家庭では麻雀をすると騒音など他に迷惑がかかり、長時間の接待も困難なので、雀荘という場所を使うということなのだから、雀荘は誰でもはいれる娯楽場であるべきなのである。

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