麻雀新聞第277号 1998年(平成10年)8月10日
激変の時代 マージャン業は生き残れるか?【6】
情報仕入れただけでアイデアは出ない
店の活性化に不可欠なデータ・知識
《サービスのみでは不十分相手の先を行くのが事業》
「情報は無料で提供されるもの・サービスは当たり前」と考えている消費者に、ある日突然、「今日からテレビ番組は有料です」といっても通じない。15年前のニューメディアブームに乗って脱サラした私は、「売れる情報」づくりに必死になった。そして、印刷物が少なくなってテレビ画面から好きな情報をいつでも取り出せるようになるという幻想を抱いた。
その結果として、約10年間の試行錯誤はお金を生み出さなかった。新聞の一覧性、折り込みチラシの低廉性、雑誌情報の切り口の多様性など、各種メディアの特性を再認識することに終わった。価値ある映像を作っても、通信や映像技術などの開発スピードや普及度とのバランスを考えないと、日の目を見ないことが分かった。手にしたものは、広範だが浅い知識だけだった。
そこで、手に入れた知識を「物」の開発や提供の仕方に結び付ける手法に転換した。やっと、お金を生み出すようになった。サービスのみでは商品にならないことが分かった。しかし、広範な知識を武器にビジネスを進めることも難しかった。売り込みの時、顧客によく説明しないと商品の良さが理解されないが、説明し過ぎると、「財産」までしゃべってしまう。聞き上手の顧客には、無料でノウハウをそっくり持っていかれてしまう。毎日知識を吸収して、常に相手より先を行かないと、事業にならない。だから、「勉強を続けることだけが、生き残る道」と、今でも認識している。
いかに顧客を店に誘引し、いかに客の要望に応じた商品を選択しやすい配列でそろえ、購入時の満足感をどう与えるかなどのノウハウは、特許でも商標でもない。だから、どんなにマニュアル書を厚くしても、すぐ真似されるし、陳腐化する。それを乗り越えるには、日々考えて、データやサービスを更新することだ。
安易にコンビニを始めて失敗し、本部の悪口を言う例が多いが、本部は万に近いショップを地域・消費層別にパターン化して情報や商品を提供しているのであって、その店の置かれた環境や消費パターンを一番知っていなければならないのは、店主自身だ。本部の提供してくるマニュアルだけで食えると考えるのは「武士の商法」で、契約に違反しないように売り方を工夫し、周辺の店の動向に留意しながら、個性を出すことだ。
本部に情報やノウハウを提供するくらいの気概がないなら、この「平成維新」は乗り越えられない。
「現在の不況は誰かが解決してくれて、また豊かな日本が戻る」という考えは捨てなければならない。何も考えないで、週刊誌と一緒になって批判に明け暮れる人は、21世紀に素晴らしい生活を享受できない。
《自分の領分を把握して他店と異なる個性を出す》
現在、特殊技能を持たず、考えることもできない人たちの雇用環境が問題になっている。「高齢者でも、知的障害者でも、店番で食っていける。つまり、形を変えた社会保障だよ」と、ある都市銀行トップに言われたことがある。この例のように、産業構造の大転換期に労働市場の移動を意識して企業にアドバイスすべき日本の指導層は、保守的で利己的だ。確かに、土地と株の作為的な高騰で懐をいっぱいにした「もたれあい指導層」のおこぼれは、庶民にも少しばかりあった。しかし、二度と「濡れ手に粟」の時代がこないなら、おこぼれも期待できない。
欧米の社会システムに近付くということは、貧富の差が歴然となり、「中流階級」という言葉が過去の遺物になるということだろう。社会の性急な変革はないだろうから、取り残されないように、じっくり将来を見据えて、自分の領分(市場や顧客)を押さえておくことだ。
店を活性化するプランを考えるといっても、データや知識がなければ、できない。
「考えて発想する」ための1つの手法を、次回に書くつもりだ。
情報を仕入れるだけでは、アイデアは出てこない。頭を休ませて、ちょっと離れて、客観的に見る習慣をつけると、突拍子もないプランが浮かぶようになる。悩むばかりでは、胃に穴が開くだけだ。どんな困難に出会っても、必ず自分なりの解決法が得られるという自信が持てるようになったら、しめたものだ。
(つづく)