昭和61年3月10日 第128号
ロマンがいっぱい
中国の古い役
マージャンの役は、時代によって取捨選択され、あるいはグループによっても、取捨選択されている。
前者の典型的な例は、ご存知「りーチ」の役。これは初期のルールにはない。また「大車輪」「百万石」などという役も、この部類に入るのだろうか。
後者の例は、有名な「一発」「ウラドラ」。そしてまた「完全先ヅケ」「パンツ」「ワレ目」「ヤキトリ」「ヤキブタ」「ドボン」……とても数え切れない。
これらを完全に知り尽している人は、日本広しといえども、まずいないのではないだろうか。
「一発」「ウラドラ」などは、近頃どこでも採用しており、グループの役というよりもむしろ、一般役とでもいった方がよさそうな勢いにある。
マージャン・グループというのを更に大きく解剖すれば、ローカル役。これもいろいろだが、代表的なのは、関東~関西の「振りテン片アガリ」役の有無。
そして四国の「3人麻雀」もこの部類に入るのではないだろうか?四国の3人麻雀は、文字通り3人で打つ。スピーディが身上の麻雀であるが、ここには「チー」「チャカチャカ(ゾロゾロ)」はない。
このようにマージャンルールは多彩であるが(逆にいえは乱れているともいえるが)まず一般的には、35前後の役によってゲームが行われているということができる。
しかし、ここで忘れ去られた古い役もある。
例えば「独釣寒江雪」「双龍争珠」「五筒開花」そしてまた「一筒摸月」…など。
これらは、中国の古い役であるが、なかなか味わいのある役でもある。
たまにはやってみるのも面白いかも知れない。もっとも、インフレ役を嫌う向きには、腹の立つことかも知れないが、しかし、現代人が手前勝手に創造した新役とは「品位格式」が違いますゾ!
独釣寒江雪
一二三七八九①②③345白
双竜双珠
三四五六七八⑤⑤45678
五筒開花
五五①②③④⑥234【NNNN】カン
一筒摸月
四五六②②②③456RRR
独釣寒江雪
(ひとり釣る漢江の雪)
何と優雅な名称ではないか!まさに寒冷地で冬にコタツに入りながら「釣りあげる」役ですナ。
え、暖房もどんどんたいてですって?そんなことしたら「寒江雪」がとけちまいますがナ。
この役、すでに場に〈白〉 (雪)が2枚捨てられている時、残る〈白〉で単騎アガリすると成立。つまり、俗にいう〈白〉の地獄待ち。
しかし「独……雪」というのと「地獄待ち」というのでは、それこそまるで「天国と地獄」ですなア。美しさと醜くさと。
双龍双樹
(そうりゅうそうじゅ)
龍虎相撃つ、ならぬ双龍相撃つの図。いや、ケンカではなく「珠(たま)」を争うのだった。(マージャンは紳士のゲームだもの!)
役は<5筒>をアタマにし、マンズとソウズで、それぞれ6連続のシュンツ(例えば1〜6)を1組ずつ作ってアガったもの。
マンズ、ソウズの各6枚の運なりを龍に見立て、その龍が珠(玉=〈5筒〉または〈1筒〉)を取り合うイメージから生まれた役だという。
いずれにしても、「赤5筒」などという、実もフタもない役に比べて、なんぼか楽しい役であることか!このことは次の役についてもいえること。
五筒開花
(うーぴんかいほう)
リンシャンカイホーの一種。これが〈5筒〉でアガリになった場合に、この役になる。
〈5筒〉がいかにも桃の花のようで、リンシャンカイホー(嶺上開花)の役にふさわしいからだという。
桃の花とは、いかにも艶で伸びやかで悩ましさがありますナァ。
桃の窈々たる…
―君子の好逑……
桃のような乙女は君子の伴侶にふさわしい……(東洋最古の詩集「詩経」より)
一筒撲月
(いいぴんもうえ)
ハイテーラオユエ(海底撹月)、いわゆるハイテイ(海底)ツモという役で、しかも〈1筒〉でアガったときにこの役になる。
〈1筒〉がいかにも月のようで、ハイテイで月を拾うという、ハイテイラオユエにピッタリしているところから、特別につくられた役だという。
〈1筒〉を月に見立てるなど、随分ロマンチックですナァー。
こう見てくると、中国の「発想の豊かさ」には驚かされる。我々も、キナくさい現代を忘れて、先に述べた35種前後の「麻雀手役表」をジックリと見る心の「余裕」が欲しいものです。
え、どこで見る?いわずと知れたマージャンクラブでですよ。ホラ、表が壁にはってあるではありませんか。
この手役の味わい、ふくみ……「味とふくみを楽しむ人生」(将棋の原田9段・元日本将棋連盟会長の言葉)。
やっぱりマージャンは奥が深いなアー。