新式麻雀タクティクス 第20回 | 麻雀新聞

新式麻雀タクティクス 第20回

若手麻雀プロが贈る麻雀の新潮流!
数あるイマドキの戦術がみるみるよくわかる連載第20回

心の支えとなっている対局

 皆さん、こんにちは。最高位戦日本プロ麻雀協会の原周平です。今回は少し、平面的な牌理の話を離れ、対局中の心の持ちようについてお話したいと思います。
 麻雀は精神が与える影響が大きいゲームです。どんなに冷静にと思っても、アガリたい、振り込みたくない、格好良く勝ちたい、報われたいといった欲は、そうそう制御できないのが人間です。長期的な視点が必要なゲームと頭ではわかってはいても、ものすごく受け入れの広いチャンス手がツモ切り続きでテンパイしなかったり、回避不能のダマテンに刺さったり、追いかけリーチに一発放銃したりと、悪い結果が続けば気分が良くないのは当然です。胆力のある人でも、あまりに連続して悪い結果になると、満たされない欲と報われなさで平常時と同じようには打てなくなるというのは、よくあることではないでしょうか。

 さて、そこで今回は、「負けているとき」に私が心の支えの1つにしているある対局について、少しお話をさせていただこうと思います。

 学生時代、私は早稲田大学の競技麻雀部に所属していたのですが、その部内での大会で、決勝に残ったときのことです。決勝は4回戦。1回戦は高打点の飛び交う叩きあいになり、結果1人が8万点越えのトップと大きく抜け出しました。ワンツーのオカ有りで、赤ありとはいえこれはかなり大きく、4回戦開始時でも点差があまり縮まらなかったため、2番手の私でも3着巡差+素点で3万点、3番手はさらに6万点、4番手は並びを作った上でさらに7万点というかなり厳しい条件でした。しかし3人で抑えにかかるのだからかなり歪んだ麻雀になるのは確かで、何が起こるか分かりません。ラス親を引き当てた私は、そう気合いを入れて卓に坐りました。
 開局、2巡目に早くもトップ目の起家が1筒をポン。続いて西もポンして打2萬。染めよりチャンタの捨て牌で、高くなる牌以外は押せなくはないのですが、せっかく手を狭めて押す気配もあるので、直撃上等の2人のうちチャンス手の方が戦うと思い、私は早々と絞って受けに回りました。
 一際大きいツモ発声と開かれた手牌(牌図①)を見て、私たちは言葉を失いました。ラスを押し付けなければいけない相手がまさかの6000オール。

 最悪の事態に、次局、私は早くも目標を修正し、直撃を狙うより普通に打ってラス親で6万点差をつけることを考え、脇からの出アガリも辞さずに親を蹴りました。それ以降は他の2人の親番は安手では蹴らず、自分の親では連荘にしがみつきましたが、奮闘虚しくトップ目が42000、私が13000、4番手が親落ちして25000、3番手が20000というところで南三局、3番手の親を迎えました。3番手と私はこうなることがある程度目に見えていたので、4番手に条件があるうちに上に押し上げようと差込んだのですが、トップ目は親とのリーチ勝負にも競り勝ち、残された2人はとにかくツモって素点を叩いていくしかない、少なくとも私はそう考えていました。
 二本場になって、トップ目からの跳ね満以上直撃以外は親の連荘支援を優先していた私は、初手から發を暗カン。マンズの染め手に向かい、少しでもプレッシャーを与えます。幸いにも下家の手は遅そうで、親が高い手をツモってくれればと期待していました。
 流局かと思われた15巡目、ずっとツモ切っていた親が突如ツモ切りリーチ。とりあえずテンパイは確約されたので安堵していると、一発ツモ。期待通りと喜びも束の間、開かれた手牌(牌図②)を見て、私は驚きを隠せませんでした。

 この6索は私の目から見て7枚目の3・6索で、しかも私が2巡前に切っていたのです。トップ目が序盤に6索を切っていたので、直撃狙いもありでしょう。配牌オリしている4番手もマンズの私も3索、6索両方を切っているので固まっているということもありません。しかし、カンドラがあって8000オールも十分狙える上に、12000では直撃したところで次局以降さらに直撃して削らない限り着順を落とせないのです。私が自分の都合で高い手をアガってしまうことも、トップ目がダマでアガってしまうことも、流局することも十分にあります。ダマツモでも6000オールあるとはいえ、脇からアガっても12000の素点が確定で縮まるわけで、それをあくまでダマの直撃狙いに構え、張ってから3度は当たれた状況で見逃し、6枚目を見送った段階でトップ目から出ないと判断しリーチに踏み切って、一発で8000オールを引いたのです。私は全身を鳥肌が駆け巡るのを感じました。

 私はこの打ち手をよく知っていました。直撃しかり、大物手しかり、何かを狙い、徹底するということに対する意志の固さ、他人に真似のできない発想を持ち、ときに役満を2回放銃したり、ツモり四暗刻から直撃狙いの単騎に変えてアガリ逃したりと、数々逸話を持っていましたが、しかし、絶対に意志のある打牌しかしない打ち手でした。
 次局、トータルトップ目が腹を括って親とのリーチ合戦に勝ち、向かえたオーラス、2巡目に3番手が2筒を両面チーして、次巡、手の中から2筒を切ってきたのを見て、私は顔がほころぶのを抑えられませんでした。さらに3万点差をつけなければならない彼が何をしているか。形テン? 威嚇?、ではなく、3回鳴いて私のツモ番を1回増やそうとしているのです。手をさらせば山に残っている牌も読みやすくなり、私の手牌進行に役立ちます。結果は逆転叶わずでしたが、私にとって強烈に脳裏に焼きついた半荘になったのは言うまでもありません。もちろん、これらの彼の選択が得かどうかはわかりません。しかし、途切れることのない強い意志の証明であることは間違いないでしょう。

 思うに、麻雀におけるメンタルとは「どれだけ麻雀に真摯に向き合えるか」ということだと思います。報われないことにいらだったとき、それは報われない可能性などいくらでもあるということと向き合えていないだけなのです。逸話が残るほどの地獄を知ったり、目先の利を捨ててでも何かを徹底したりということが、まだまだ足りないのでしょう。「たかが役満テンパイくらいいつでも降りられる」くらいの域まで達すること、この半荘を経た今の私の目標です。

AUTHOR:原 周平(23歳)
PROFILE:最高位戦日本プロ麻雀協会C1リーグ所属。
早稲田麻雀部元部長。
大学対抗麻雀駅伝に早稲田のアンカーで出場し優勝。
天鳳九段(ID:焚き火)。
雀風は数多の戦術からいいとこ取りの門前攻撃型。

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