麻雀の社会学-2 井出洋介 | 麻雀新聞

麻雀の社会学-2 <東大卒業論文> 井出洋介

第二章 麻雀の現状

一、麻雀の現状

第一章で述べたように、麻雀の歴史を大雑把に振り返ってみたが、今度は現在の麻雀界、具体的な時期を区切れば、昭和四十年以降に限って、その現状・課題を分析していこうと思う。

この論文の冒頭でも触れたよう に、麻雀人口の増加は著しく、過去十年間に五割増と推定され、現在は二千万人にも達すると言われている。この内わけは表1の通りである。

表1

・年齢別推定割合 ・職業別推定割合
20歳未満 9% 商社公務員 32%
30歳〃 28% 商業 17%
40歳〃 36% 工、運輸、建築業 6%
50歳〃 21% 飲食、娯楽業 28%
60歳〃 5% 自由、学生 12%
60歳以上 1% その他 5%
(『麻雀白書』1978年・麻雀新聞)

この表からもわかるように、麻雀は社会のすべての層の人々に親しまれていると言ってよいだろう。しかし、女性愛好者数は近年急速にふえているといってもまだまだ少なく、麻雀人口の1%にも達していない。

麻雀の行なわれる場所としては家庭、職場、雀荘、旅館、料亭など広範囲の場所があるが、騒音をともなうことと、四人揃わないとできないという性格上、どうしても家庭外で、とりわけ雀荘で行なわれることが多くなる。

その雀荘の数も麻雀人口の増加とともに急増し、東京だけで九千軒以上、全国では三万五千軒ほどになっている。
雀荘には四人のグループを作って入るのが普通であるが、一人でもやりたい時に、いつでも行ける「フリー」の雀荘もある。戦後しばらくはそういった雀荘がほとんどだったようであるが、その後減少し、最近の麻雀ブームでまたいくらかふえてきた。仲間内の麻雀だけでは飽きたらなくなってきた腕自慢が、その実力を試しに、あるいはいつもメンバーが揃わない人がフリーの雀荘に足を運ぶのである。「お一人でも気楽に遊べます」などと看板に出ているのがフリー店である。こうしたフリーの雀荘は、大きく二つの種類に分けられる。一つは普通のリーチ麻雀の店で、もう一つが、いわゆる「ブー麻雀」(※注1)の店である。 ブー麻雀は大阪が発祥の地で、その後多少形を変えながら全国に波及した。
だから場所によって名称も変わり、名古屋では「賞品マージャン」、関東では「おとし」とか「スポーツ麻雀」とも呼ばれている。ただ共通のルールは、だれか一人がハコ点または持ち点(※2)の二倍になったときにゲーム終了(ブー)になることである。通常のドラのほかに固定ドラ(※3)のある場合が多く、関東ではそれをあがり役として認めている。ブー麻雀の特徴は勝負が早いことである。東一局で終了してしまうこともしばしばあり、したがって短い時間に何回もできる。ゲーム終了のとき、他の三人を沈めてのトップを「三コロ」または「マルエー」といい、二人が沈んでいるときは「二コロ」という。(※4)たとえば「三・五」というレートは、一コロのとき沈んだ人が三百円ずつ、三コロのとき五百円ずつトップ者に支払われるのである。そしてトップ者は、その中から、たとえば二百円をゲーム代として店に支払うしくみになっている。つまり持ち点棒にお金を 賭けないのである。

新宿歌舞伎町にあるフリーの雀荘はほとんどこれである。

レートは例にあげた 「三・五」が最低で、「七・十」くらいがもっとも多く、上は一ケタ大きい「三・五」、ふつうはそのくらいまでであり、それ以上は例外的と考えられる。リーチ麻雀は、フリーの雀荘に限らず、どこでも行なわれているもっともポピュラーな麻雀(いわゆる、ふつうの麻雀)である。ルールはもっとも多いのが「あり・あり」と呼ばれる。一発役で裏ドラがあり、喰いタンヤオ、先づけあり、リャンゾロ場で満貫が八千点(親は一万二千点)の東南まわしの半荘戦である。このルールが今や麻雀の基本形といってもいいのではないか。これをやや変形したものが「完先ルール(完全先づけ)」といって、喰いタンヤオ、先づけを認めず、役や点数こそ同じだが、和る形に制限を加えたものである。

このルールには数々の矛盾点があり、公式の競技会などでは用いられないが、一般の人には対戦者の手が読みやすくなることから、結構人気があるようだ。が、逆にその性質によって麻雀の興深い魅力を減少させてしまうルールであることも確かであろうリーチ麻雀でのレートは千点百円が標準的のようだ。いわゆるグループ内での麻雀は本当にピンからキリまでで、学生同士なら千点十円から五十円の間がもっとも多いし、サラリーマンだと百円、商店主や会社の重役クラスになると三百円、五百円、さらには千円以上もあるが、フリーの雀荘では現金清算のせいもあるが百円か二百円が多い。三百円や五百円となるとかなり高額の金が動くが、きわめて少ない。最近はやってきているのが、ギャンプル性の高い新ルールで、たとえば「アリス」といって、門前で和ったときだけ、ドラを表示牌の隣めくって、その現物牌があると一枚につきいくら、あった場合にはさらに隣の牌をめくることができ、現物がなくなるまで見ることができる。

そして、出和りなら一人からだが、ツモ和りなら三人から貰えるのである。

そして、この「アリス」は点数には関係なく、現金での一種の御祝儀なのである。このアリスをはじめ、「ドボン」「ルーチョンキ」「トリ」など御祝儀ルールは数多い。なぜこういったものがはやったのかというと、そもそもサラリーマンのグループでは点数での勝ち負けを月末の給料払いにすることが多く、勝っても現金収入のないのがつまらなくなった人たちが考え出したというのが、この御祝儀ルールのようだ。東風戦も最近流行しつつあるものの一つである。つまり、東場しかない一周戦で、半荘の半分しかない。だから短い時間ですむ。三人麻雀も回転が早い。四国では三人麻雀の方が盛んである。

三人麻雀の一種の「北抜き」というものは、もはや、ふつうのリーチ麻雀とは別のゲームといってもよいほどで、メンバーが三人揃えば五分でも十分でも時間を決めてやれるという便利なものである。とにかく、これだけ新しいルール(※5)や異なるやり方があることは、麻雀というゲーム自体がまだまだ不安定な、完成度の低いものかといえば、そうではない。むしろ誰にでもおもしろいと思われるからこそ、プレーヤーが工夫し、さらに楽しさをふやそうと、あるいは、いつも負ける相手になんとか勝ちたいと思って珍ルールを作り出すのである。偶然の要素ばかり強くして、ギャンプル性ばかり高くなるのは麻雀というゲームの健全な発展にとってよくないことであるが、どんなルールであってもプレーヤーがみな、平気でそれに合わせてやれるところにも麻雀の楽しさがあらわれている。

【注】

※1 「ブー」、「ブーマン」とも言う。

※2 持ち点は二千点持ち(主に関西)、四千点持ち、六千点持ち(関東)などがある。

※3 赤五筒など、関東では、 赤五万、赤五索などがある。

※4 関東では、オーラス以外の「一コロ」は禁止されているが、関西では一コロもある。

※5 新しいルール、珍ルールを扱ったものに、村石利夫 「変形麻雀入門」 一九七八 大泉書店がある。

 

二、学生の麻雀

麻雀を楽しむ人の内訳はすでに述べた通りだが、その中で一割以上を占めていたのが学生である。それも一割というのは人口だから、麻雀をする延べ時間を考えれば学生の占める割合はさらに大きくなるだろう。おそらく麻雀ファンの大部分が学生時代に覚え、打ちまくったのである。だいたいお茶の水とか早稲田といった学生街にある雀荘は、午前中から満卓になり、そのまま終業というのがほとんどであるという。正確な調査ではないが、平均的な学生で週に三回は卓を囲むという。ただ、その中身を比べてみると幅もかなり広いようだ。もっとも多いのが自分たちのグループ内での麻雀で、レートも千点五十円くらいが上限である。少々腕に自信がついてくると、フリーの雀荘に顔を出すようになる。

いわゆる麻雀天狗が出てくる。十年か二十年ほど前だと、そういった連中がかなり多かったという。だから当然、麻雀による負債がかさんで授業料が払えないとか、生活していけないような状態に陥る人もいたのだが、最近はそういった猛者が少なくなってきた。麻雀のレベルそのものも下がっているようだ。というのも現代の学生にとっての麻雀と、一昔前のそれとは意味合いが違ってきている。以前の学生は何事においても一度手を染めたら、それにとことん熱中することが多く、麻雀に関してもそうで、それ以外に手頃なレジャーもなかったことが麻雀熱をいっそうあおっていたのだが、現在の学生は少々違う。レジャーの種類も多いなかで、何か一つのことだけに熱中するより、いろいろなことをやってみる、あるいはやれるということが多角的なこの世の中を生きるのに都合がよいと考えており、麻雀もその一つと思っている者が多いようだ。

そればかりでなく、麻雀を友だちとのコミュニケーションの場とも考えている。酒と同様に、麻雀がやれないようでは人づき合いに困る(社会に出てからのことも含んでいるようだ)からと、覚える者も結構いるのである。そして、いざやり始めてみるとおもしろく、ギャンブルの刺激も味わいながら楽しむのである。学生麻雀を批判して、その分ほかにエネルギーを向けたらという考えもあろうが、そのような批判なら麻雀に対してもスポーツに対しても同じようになされるべきで(勿論、スポーツと麻雀は文学通りの健康的か否かの差はあるが、社会に対しての意味は大差ない)心配しなくても学生当人たちは、それなりに麻雀の位置づけをしっかり考えているように思える。最近の傾向として、ギャンブル的な面よりも、ゲームとしての麻雀を楽しむという方向は、今後の麻雀のあり方にとって、むしろ明るいものを感じるのだが、どうであろう。

 

3へ続く

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