1990年(平成2年)11月10日 第184号
麻雀経営 べからず集 〈連載10〉
昭和40年代のマージャン店は、どこへ行っても景気が良かった。学生街では午前9時頃から満卓の盛況、一般客相手の店も夕方6時には満卓になり、空いている店を探すのに苦労する状態だった。全自動卓などという「文明の利器」が出現する前だから1回ごとに手でかきまぜ、積み上げて楽しんだ時代だ。
都心部の店は予約しないと入れない状態で、今から思えばたいしたサービスをされなくても毎日のように通ったものだ。
その頃に比べて、現在のマージャン店は設備がデラックスになり、サービスも良くなっているのに、客の数が減っているのだから、実に不思議な現象といえる。もっとも、昔に比べて今はいろいろな娯楽施設がはんらんしているから、マージャンばかりしている人は少ない。特に大学生がマージャンを昔ほどやらなくなったことはマージャン店にとって大きな痛手だ。
われわれの世代(50-60代)は大学生でマージャンを覚え社会へ出てからさらに腕を磨き、接待マージャンで上手に負けて上司に褒められたものだが、マージャンをしない今の大学生は社会へ出てからも接待マージャンなどできるわけがなく、せいぜいカラオケ接待で終わってしまう。
そういうことが原因して全国的にマージャン店の数が激減し、最も多かった昭和53年の3万5800軒から63年の2万6500軒まで、26%減になっている。
マージャンファンとしては非常に寂しいことだが、冷静に考えてみると、廃業していった店には、それなりの原因があったのではないかと思われる。店数が少なかった頃は、何もしなくても客は集まったが、同業者が増えて過当競争の時代になると、経営努力をしない店は当然、淘汰(とうた)される。
逆にいえば、現在でも大いに繁盛している店は、それなりに客が集まる要素を備えているのだ。その要素にはいろいろあるだろうが、一つでも多くの要素を作ることが経営者の役目であり、そのための智恵と努力が店を繁栄させるポイントといえる。
廃れていく店、伸びていく店、それぞれに原因となるものがある。その原因を早く見つけて、悪い点は排除し、良い点はためらわず進んで取り入れ、常に客の立場に立って客の求めるもの(二ーズ)をしっかりつかんでいくことがマージャン店経営に成功するコツだ。
このシリーズでは、客の立場から見た店の悪い点を取り上げた。自分の店を振り返って再点検していただきたい。
㉑言葉遣いを正しく
デパートの従業員の対応ぶりは、その身のこなしから言葉遣いまで非常に気持ちのいいものです。これは毎月の勉強と、先輩や教育係りなどの訓練による成果で、それほど接客業というものは、厳しく常に反省しながら勉強する必構えが必要だと思います。
マージャン店も接客業のひとつですから、デパート並みとは言わないまでも、せめてそれに近い水準にまでなってもらいたいものです。
マージャン店では、黙って聞いているとまるで友達と話しているような会話を耳にします。
「○○さん、お茶にするの、それともコーヒー?」
デパートとは違い、客層が一定の範囲に限られているためか、意外と慣れ合い接待になりやすく、客の方も、何回か来ているうちに仲間意識を持つためか、あまりうるさいことは言いません。
しかし、初めての客や最近来始めたグループが聞いてるのですから、「○○さん、お茶にしますか、それともコーヒーですか」という聞き方が、最も望ましいでしょう。”親しき中にも礼儀あり”という言葉があるように、いくら親しくなっても相手は客であるという一線を引いておくことが必要です。
「タバコ下さい」
「はーい、ちょっと待って」
これではどちらが客だか分かりません。
「はーい、少々お待ちください」
たとえ相手がおなじみさんであっても、その他の客が周りで聞いていることを忘れてはなりません。
「両替えして」
「両替えはおいくらですか」
というように、相手を常に尊敬していることが言葉や態度に表現されなくてはいけません。両替えのお金を持っていっても、「はい、どうぞ」の一言で済まさずに、「一万円両替えです。どうぞお調べになって下さい」と預かった金額をはっきりと言って、あとにトラブルを起こさないためにも目の前で数を確かめてもらうことが大切です。
しかし、マージャンに熱中していると、とかくトラブルの原因を作りがちです。タバコ代のツケなどはそのいい例でしょう。
店によってはその場で現金でもらうようにしていますがたまたま細かいのを持っていなかったために、伝票につけておくことがあります。ところが、支払いのときになってタバコ代を請求すると、すでに払ってあると言いだす客がいます。こんな時でも、たかがタバコ代でむきになり、ケンカを売るような口調で言ってはいけません。
「甲し訳ございません。お客様の勘違いだと思いますが、ご納得できないようでしたら結構でございます」
“ものも言いようで角が立つ”という言葉通り、へり下ってていねいに言えば、理解してくれることにもなります。
また、このようなトラブルを起こさないために、タバコ代はつけたということをはっきりと認識させる応対をしなかったことも反省し、わずかなことで、客を失わないようにすべきです。
言葉というものは、人と人どの間を取り持つ大切なコミュニケーションの手段ですから、軽く考えてはいけません。特に接客業にとっては、単なる社交辞令的なものにとどまらず、営業成績に直接はね返ってくるものですから、反省してみてください。
㉒丁寧な電話の応対
電話の呼び出しコールが鳴っているのに、なかなか出ません。まさかマージャン店が休みではないが忙しいのかな…と思っていると受話器が取られる音がして、ようやくつながりました。
「……」
しかし、相手は無言です。仕方がないので、
「もし、もし、○○荘ですか」
「はい、そうですが」
こちらが聞いて初めて返事が返ってくる状態で、しかも”そうですが”という言い方は、まるでマージャン店と分かりきっているのになぜ改めてそんなことを聞くのだろうか、というように聞こえてしまいます。これでは友達と待ち合わせてマージャンをしに行くつもりでいた気持ちが、いっぺんにさめてしまいますし、そこのマージャン店で待っている友達を呼び出し、他のマージャン店へ行きたくもなってしまいます。このように、電話の応対は顔が見えないので非常に難しいのです。
第一に、呼び出しベルがうるさく鳴ってから出るようではいけません。何か用事をしていてもすぐに手を休め、電話に出なければなりません。電話に出たら、まず店名をはっきりと、ていねいに伝えましょう。
受話器を取り上げたまま黙っていられたのでは、相手は一瞬、かけ間違ったかと思います。
「ありがとうございます。OO荘です」
「お待たせしました。××荘です」
店名を言う前に、相手に対する感謝の気持ちをこめて、または電話のつながるのをイライラして待っている相手の気持ちに礼をつくす意味で、ていねいに応対することが大切です。
もしもその電話が間違い電話であったとしても、相手はわざと間違えたわけではないので、親切にやわらかくお断りするようにしましょう。
「いえ、違います、何番におかけになったのですか」と番号を確認してあげれば、相手の手帳の番号を書き直せるかもしれません。こういう親切な気持ちが大切です。
客に取り次ぐときは必ず相手の名前を聞いて「○○さんからお電話です」と言って取り次ぐのが一般的な常識です。
また、取り次ぐ相手がまだ来ていないときは、伝言の必要があるかどうかを聞くようにしましょう。
そして、伝言を頼まれたときにはメモなどに必ず記入しておきます。相手の名前、伝える用件、日時などを正確に記入して、内容に間違いがないか復唱して確認しましょう。そのあと自分の名前を言って、確実に伝言を伝えることを約束します。
電話を切るときは、相手が切ってから静かに切るようにしましょう。忙しいときなどは、無意識にガチャンと切ることがありますが、これは絶対に慎まなければなりません。
誰しも電話をガチャンと切られて、気持ちのいい人はいません。せっかく気持ちのいい応対をされていても、こういう電話の切り方をされては、ただそのことだけが頭に
残り、いい印象が薄れてしまいます。それまでの応対を無にしないためにも、このような相手にとって大変に失礼になることはやめましょう。
電話の応対ひとつとってもその店の経営方針が分るかものです。特に、電話は相手の顔が見えませんから、たとえニコニコと笑顔を浮かべて話しをしていても、相手には伝わりません。言葉だけで相手にいい印象を持たせることは、非常に難しいことですから細心の注意が必要です。
㉓サービスは心こめて
「あの人はよく動くな」
「ほんとうに、よく気がつく」
こんな会話が客同士の間でささやかれているように、次々と仕事を作って働く人は見
ていて大変気持ちがいいものです。何でも積極的に取り組もうとするから、店内に活気がみなぎるからです。
しかし、なかにはまったく動かない人もいます。空いているテーブルのいすに座ったっきり、動こうとしません、何か用事を頼もうとしても、遠くに座っていられると声をかけにくくなるものです。
その点、熱心な人の場合は常に店内全体に気を配っており、いつでも何でも用事を言いつけて下さい、と言わんばかりに待機しています。
「お茶にしますか、それともコーヒーにしますか」
こちらから頼む前に積極的に注文を取りに来ます。動かない人は、注文をしても面倒臭いと言わんばかりの態度をどったりしますから、つい頼みにくくなってしまいます。
マージャン店でする飲み物のサービスは、多くの店が時間を決めてサービスしています。お店によっては、お茶だけでなくジュースやコーヒーを無料でサービスしています。
しかし、いくらいろいろな物をサービスしてあげても、そのときの態度によっては、全く逆効果になってしまうことを経営者は知らなくてはなりません。
よく、お盆の上にお茶やコーヒーなどをたくさんのせて各卓のサイドテーブルに一つずつ置いていきますが、その置き方が事務的で乱暴ですから、コーヒーをこぼしたりします。その上、こぼしたことをあやまりもせず、おしぼりでふいて終わりにしたりします。
これでは、サービスに全然誠意がこめられていません。
お店の人にすれば時間を決めて定期的にするサービスのひとつと考えてつい事務的な接待になるのでしょうが、費用をかけているサービスですから、もう少し工夫をしてみたらどうかと思います。
第1に、初めに各テーブルを回って客の希望を聞くようにすれは、お茶やコーヒーも無駄なく作れますし、今は飲みたくないという人、ビールや水割りが欲しいという人もいるので、それぞれの客の希望を聞いて回ったほうが、より親切だと思います。
第2に、希望の飲み物を届けたときは、必ず相手の名前を言ってから置くようにしましょう。
「○○さん、お待ちどうさまでした」
その人の名前が分からない場合でも
「こぶ茶ここへ置きます」
と声をかけて当人に認識させましょう。そうしないと、ゲームに夢中になって最後は冷たいコーヒーを飲むことになってしまいます。
食事のあとに必ず、つまようじを使う客がいる場合は、
「ようじをお使いになりますか」
「ようじをどうぞ」
と言って差し出すぐらいのサービスも必要でしょう。
サービスというものは、親切心と誠意がこめられてこそ生きるものなのです。