【追憶の麻雀】第57回「麻雀経営 べからず集」 | 麻雀新聞

【追憶の麻雀】第57回「麻雀経営 べからず集」

追憶の麻雀

1989年(平成元年)10月10日       第171号

 

麻雀経営   べからず集

亡びる店・栄える店

的確な原因把握が運命の分れ道

 

昭和40年代のマージャン店は、どこへ行っても景気が良かった。学生街では午前9時頃から満卓の盛況、一般客相手の店も夕方6時には満卓になり、空いている店を探すのに苦労する状態だった。全自動卓などという「文明の利器」が出現する前だから1回ごとに手でかきまぜ、積み上げて楽しんだ時代だ。

都心部の店は予約しないと入れない状態で、今から思えばたいしたサービスをされなくても毎日のように通ったものだ。

 

その頃に比べて、現在のマージャン店は設備がデラックスになり、サービスも良くなっているのに、客の数が減っているのだから、実に不思議な現象といえる。もっとも、昔に比べて今はいろいろな娯楽施設がはんらんしているから、マージャンばかりしている人は少ない。特に大学生がマージャンを昔ほどやらなくなったことはマージャン店にとって大きな痛手だ。

 

われわれの世代(50-60代)は大学生でマージャンを覚え社会へ出てからさらに腕を磨き、接待マージャンで上手に負けて上司に褒められたものだが、マージャンをしない今の大学生は社会へ出てからも接待マージャンなどできるわけがなく、せいぜいカラオケ接待で終わってしまう。

 

そういうことが原因して全国的にマージャン店の数が激減し、最も多かった昭和53年の3万5800軒から63年の2万6500軒まで、26%減になっている。

マージャンファンとしては非常に寂しいことだが、冷静に考えてみると、廃業していった店には、それなりの原因があったのではないかと思われる。店数が少なかった頃は、何もしなくても客は集まったが、同業者が増えて過当競争の時代になると、経営努力をしない店は当然、淘汰(とうた)される。

 

逆にいえば、現在でも大いに繁盛している店は、それなりに客が集まる要素を備えているのだ。その要素にはいろいろあるだろうが、一つでも多くの要素を作ることが経営者の役目であり、そのための智恵と努力が店を繁栄させるポイントといえる。

 

廃れていく店、伸びていく店、それぞれに原因となるものがある。その原因を早く見つけて、悪い点は排除し、良い点はためらわず進んで取り入れ、常に客の立場に立って客の求めるもの(二ーズ)をしっかりつかんでいくことがマージャン店経営に成功するコツだ。

 

このシリーズでは、客の立場から見た店の悪い点を取り上げた。自分の店を振り返って再点検していただきたい。

 

①接客時の言葉遣い

 

マージャン店へ打ちに行っていると、いろいろな従業員や経営者がいるのに気付く。

中でも言葉遣いを知らないというか、客への話し方に無頓着な人が多いのには驚く。経営者の教育が悪いのか、経営者自身が知らないのか、どちらにしても感心できることではない。

 

「お茶をください」

「ハーイ、ちょっと待ってね」

「マイルドセブン持ってきて」

「お釣りかな?」

「ハイ、ゲーム代」

「どうも」

 

当人は何げなく応答しているのだろうが、聞いている客としては不愉快だ。たとえ常連客であっても、相手が客である以上、相手を客として扱う言葉遣いができないようではサービス業として失格だ。

 

前記の例なら、次のような表現になる。

 

「ハーイ、少々お待ちください」

「お釣りをお持ちしますか?」「お釣りでしょうか?」

「どうもありがとうございます」

 

そのほか、いろいろな場面を次に列記してみたが、×印は悪い言葉遣いだから、◯印のように改めるよう心掛け、また従業員にも指導してほしい。

 

《連休前に》

×「連休はどっか行くの?」

○「連休はどこかへお出掛けですか」「連休はどちらかへいらっしゃいますか」

 

《飲食物、タバコの注文をとる時》

×「何を頼むの?」「何にするの?」

○「何にいたしますか」「何にいたしましょうか」「何を召し上げりますか」「何をお持ちしましょうか」

 

《電話を取り次ぐ時》

×「00さん、電話」

○「○○さん、お電話です」

 

《電話をかけてくれと頼まれた時》

×「何番?」「何番へかけますか」

○「何番へおかけしますか」「何番へおかけしましょうか」

 

《ミスや粗相をした時》

×「こめん」「ごめんね」「すいません」

○「ごめんなさい」「すみません」「申し訳ありません」「失礼いたしました」

 

《待ち合わせをしている客に対して》

×「まだ来てません」「まだ来てないです」

◯「まだいらしていません」「まだおみえになっていません」

 

《ジュースかコーヒーか訊ねる場合》

×「どっち?」「どっちにしますか」

○「どちらにしましょうか」「どちらになさいますか」

 

《ニュースなどの情報について》

×「知ってる?」「知らないの?」「知ってますか」

○「ご存知ですか」

 

《立て替えなどを頼まれて断る時》

×「それはできません」

○「それはいたしかねます」

 

接客時の言葉遣いは非常に難しい。常連客だからといって柔らか過ぎれば矢礼になるし、新しい客に対しても堅過ぎれば、いんぎん無礼になりかねない。

 

要は、客と店という立場をきちんとわきまえた上で、客に対する尊敬の念と思いやりを忘れないことだ。

 

昔から「言葉は体を表す」という通り、客への言葉遣いで人柄や経営姿勢までも見抜かれ、やがて営業成績に響いてくるから、ふだんから言葉遣いを訓練することによって「体」を整えることが大切だ。

 

②返事を忘れた従業員

 

いつもニコニコ顔で応対してくれる経営者や従業員は実に感じがいい。店の中も明るい雰囲気になる。店へ一歩入った途端に、「やっぱり、この店へ来て良かったなア」というほのぼのとした感情がわいてくる。

それほど最初の応対は大事だ。そして、客が帰るまでの間は終始変わらない態度で接してほしい。

 

客の方はマージャンに夢中だから、「少々のサービスのミスには気付かないだろう」などと思ったら大間違いだ。客は見ていないようでも案外観察しているもので、特に負けている客は、頼んだお茶や食事が遅かったりすると、ますますイライラして店の人に当たり散らす。

 

また、大きい店では従業員がどこにいるのか分からない場合があって、大声を出すこともできず、近くへ来たら頼もうとするから、つい神経が半分だけそちらの方へ向いてしまう。こうなると、落ち着いてマージャンを楽しむどころではない。

 

たいていの店は各卓に呼び出しベルが備えており、ボタンを押すとカウンター内のチャイムが鳴ったり、ランプが点灯して分かるようになっているが、注文が殺到する時間や人手不足の時は対応が遅れることがある。

そんな時、小走りに来てニコニコ顔で、「すみません、お待たせいたしました。ご用は何でしょうか」と柔らかに言われたら、少々腹が立っていても収まってしまう。

それが、「なんでしょうか!」と怒鳴るような聞き方をされると、怒りたくなくても文句の一つも言いたくなるしもう用事を頼む気もしなくなってしまう。

その上、用事を頼んでも返事が返ってこないと、果たして聞こえたのかどうか心配になるし、不愉快きわまりない。

 

「ハイ、かしこまりました」

「ハイ、少々お待ちください」

「ハイ、ただ今お持ちいたします」

 

最低限、返事だけでもいいから、客が頼んだ用件を了解したという明確な意思表示がほしいのだ。

返事がないから聞こえなかったのかと思っていると、いつの間にかタバコやジュースが届くというのでは、客としては非常に心もとない。頼んだ物が届けばいいというものではない。頼まれた物をいかに気持ち良く届けるかが、客商売の命なのだ。

 

特に、食事の出前を注文する場合には、もっと細かい神経を便ってほしい。出前注文が集中する時間帯には、そば一つ取るにしても、届くまでに相当の時間がかかる。そんな時は注文先に何分くらいかかるか確かめて、「お客様、いま込んでいるので40分ほどかかるそうですが、それでもよろしいでしょうか」と念を押す親切さがほしい。

注文だけしておけば、品物が届くまでに何十分かかろうが知ったことじゃない、という不親切な態度では困る。誰でも空腹の時はイライラしてくるし、負けていればなおさらだ。明るくはっきりした返事とともに、客の気持ちをいたわるような親切心を発揮してもらいたい。

 

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