麻雀長屋のひとびと -第八回「事業継承」-

「麻雀コラム」 連載第八回
 麻雀大好き落語家の三遊亭楽麻呂師匠が「麻雀」で
 現代社会を愉快に叩っ斬る!

第八回「事業継承」

三遊亭楽麻呂

「八っつぁん、いる かい?」

「あれ、隠居さんじゃねーですか。隠居さんの方からウチへ来て下さるなんて、珍しいこともあるもんだ。
 ま、ま、散らかってますけど、どうぞ上がって下さい」

「悪いな。じゃ、ちょいと邪魔するよ」

「一体どういう風の吹き回しですか?」

「いや、今日はちょいとお前さんに相談があってな」

「アッシに相談ですか? いつもとアベコベですね。
 お役に立てることはあんまりないと思いますが」

「いや、いや、そんなことはない。若いお前さんにお知恵を拝借しようと思ってな」

「どんなことですか?」

「実はアタシの知り 合いが雀荘を経営してて、そのことなんだ」

「雀荘ですか? 何て言う雀荘ですか?」

「彼も麻雀が大好きで、ともかく出親が好みで『東東(とんとん)』という名前を付けた」

「人間はそれぞれ違いがあって面白いですね。アッシなんか、どっちかってーとラス親 の方がいいですがね」

「まぁ、人それぞれ好みは色々だな。
 ともかく雀荘をやっているんだが、最近では体力が落ちてきたり、腰が痛くなったり、気力が萎えてきたようだ。
 何と言ってもアタシと同い年だからな」

「だんだん辛くなってきたんですね」

「その通り。で、ぼちぼち引退を考えたいんだが、店をどうするかで悩んでいる」

「だったら、お子さんに継がせればいいじゃないですか」

「それだったら話は簡単、何もお前さんに相談する必要はない」

「ってことは?」

「そう、子供がいないんだ」

「じゃ、いっそのことやめちまったらどうですか?」

「それが、彼は店に大変な愛着があって是非残したいと。何よりも経営は順調だ」

「えっ、収支はトントンじゃないんです か?」

「それは店名だ。儲かってるらしい。黒字だそうだよ」

「確かにやめるのはおしいですね」

「だろ? で、お前さんに何か名案はないかなと」

「M&Aなんて、どうですかね?」

「チョコレートか い?」

「違いますよ。企業の合併や買収です。ある意味、はやりかもしれません。
 同じ業界で 買ってくれるところがあれば一番いいんですが。
 買ってもらうにあたって店名は永遠に変えないという条件を付ければ、ずっと残りますよ。
 まっ黒字だから買い手はすぐに見つかりますよ」

「そうだったらいいがね」

「しかし、この事業継承というのは今や社会問題ですね。
 お子さんがいても、経営は大変だってんで二の足踏む場合も多いですからね」

「今の時代、企業経営は大変なのはよくわかる」

「何かあったらすぐに叩かれますからね。
 アッシの知り合いも町工場をやっているんですけど、
 この間、品質データを偽ったってんで大騒ぎになりやしたよ」

「アタシの友人の会社も資格のない者が検査をしてたというので大騒動」

「ですので、今や事業継承を請け負う会社まであるんですよ」

「へー、すごい時代だな」

「女の子しかいなくて、継がせられない場合には、
 経営に向いている優秀な婿さんを連れて来てくれるなんてことも」

「いやいや、そこまでか。驚きだ」

「その点隠居さんは、そういう悩みがなくていいですね」

「そんなことはない。アタシにもある」

「どういうことですか?」

「ウチは、子供がいても継がせる事業がなくて困ってる」

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