【追憶の麻雀】第11回『麻雀チェーン店化論』 | 麻雀新聞

【追憶の麻雀】第11回『麻雀チェーン店化論』

麻雀新聞第26号 昭和54年6月10日

麻雀チェーン店化論

当業界は過当競争のまま、こう着状態となっている。この実態はいうまでもなく、客数に較べて卓数が多過ぎるという事であり、今や設備卓数の五割がとこ空卓であるといわれている。そしてこれを是正するには、早急に客を増やすか、または卓を減らすかであるが、どちらも不可能に近い上、それが最良策でもない。

たとえば、客の増加であるが、これは、もう、一昔も前から声を大にして叫ばれ、いろいろと研究はされているものの、まだ、効果あるものは見つからない。また、たとえ、それに成功したとしても、たちまちその分だけ新規業者が増加して、せっかくの努力も水泡に帰してしまうに違いない。だいたい、一般の人々は、麻雀業者はこの程度がちょうどよいと考えているらしい。それが証拠に最近はさすがに純粋の新規開店は減り、もっぱら居抜譲渡による開業ばかりとなっている。ところが客が増加し、稼働率が七、八割にも復帰すれば、またまた頭をもたげてくることは明白である。

次に、卓の減少も難しい。

それは廃業名の店舗がほとんど居抜譲渡されるからである。もともと卓数の減少は店舗の減少によるものでなければならないのであって、単なる現業者の減卓では、空卓は減少しても肝心の収入は回復しないばかりか、前記同様、新規業者の誘発を招くに過ぎない。廃業者の店舗が何の確信もない人に居抜譲渡される、そして日ならずして次々と渡っていく。これでは経営者が変っているだけで、決して卓の減少とはならないのである。

さて、このように客の増加も出来ない。卓も減らないとなれば、残る手段は経営者の数を減らす、すなわち、現在の経営者が廃業者の店舗を譲り受けること、また雀荘に最適な場所は先に取得して店舗を復数化する以外にない、1というのがこの説の根拠である。

これはもちろん、店舗の大型化でもなければ、増卓でもない。要するに廃業店舗を新規業者に渡すことなく、ジワジワと手を拡げて麻雀業界を現業者の支配下に納めようとする遠大な計画である。

実行の可否はともかく、今少し聞いて頂こう。

まず、順序として廃業者の店舗が新規の素人に渡ったときの弊害を考えてみたい。

第一に過当サービスである。

開店時は開店サービスと称して料金は半額、無料のままでコーヒーは飲み放題、中には弁当付まで平然と行う。その間、近隣店舗は全くお手上げとなることは言うまでもない。そして甚しきは一つの店舗がわずか一ヵ年に四回も代替りし、その都度このサービスをやられたという例である。近隣店舗の被害は全く言語に絶するものがあったに違いない。

第二に、料金のダンピングである。

新規開業者は当初低料金で周囲の客を集めた上、時期を見て値上げしようとする。しかし、結局客付きが悪いから、そのまま継続してしまうケースが多い。これも周囲の店にとっては迷惑千万なことである。

第三は、過当設備である。

新規開業者は店を居抜譲渡によって入手しても開店までにはほとんど内装、設備を一新するが、そのなかで度を過ぎたものが大変多いのである。もちろん、立派なことに越したことはない。しかし、これは料金あっての事であって、到底、現料金ではカバー出来ないような支出は、必ず破綻を招くばかりでなく近隣店舗や業界に悪影響をもたらすことも明白である。

ところが、近年この居抜譲渡は年八%にも達していて、この傾向は、ますます増加するものと思われ、これから先の三年間でも実に全体の三割が譲渡されると考えられるのである。

そこで今かりに、このうち二割を現業者が譲り受けたとすればどうなるか。例えば現在の客数が1000名、店舗数が10、経営者数も10人、各店10卓とすれば現在の1卓当りの客数は10名、一経営者当りの客数は100名であるが、これを2割譲り受けたものとすれば1卓当り、1店当りの客数は同じでも、一経営者当りの客数は2割増の120名となるわけである。

さてここで、この説に応えて買収する店舗を物色したとしよう。

まず第一に、物色範囲は現在営業中の店舗の近隣である事が望ましい。もちろん、遠距離でも結構ではあるが、近い場合は複数化のメリットが大変多いのである。

その第一として、店舗の選定に間違いが少ない。だいたい、近隣店舗なら当然その店の従来の営業方針、客質、家主との関係などについて、ある程度の予備知識を持っているわけであるから、今後の運営の可否、現在の長所、短所について推定することが司能で、間違っても売主や不動産屋による過大評価に乗せられることはない。

第二に監督上の便である。店を増やせは当然その店は雇用従業員によって運営しなければならないが、その場合の監督、多忙時の手助けなど近隣店舗であれば都合がよい。

第三は客の分離、集合である。例えばA店はセット客、B店はバラ客、騒ぐ客はC店へ収容するとか、また、A店だけは正午から開店してBC店の客をも収容するなど大変無駄がない。

第四は、一店が修理、事故等により休業しても他の店に収容する事が出来ること。

第五に、料金とサービス上の過当競争が、なくなることである。客はおおむねその周辺、小範囲で店を選ぶ傾向がある。従って近隣店で、料金、サービス等に大差があってはいけないし、それが過当競争の原因ともなっている。ところが、同一経営者の店であれば、この懸念がないばかりか、今日は来ないから近所の店へ行ったのでは、という心配も少くなり、さらに店が多くなれば「どこへでも入って下さい」ということにもなりかねない。

その他にもいろいろ利点があるのではないと、現に三店を経営していて、それがすべて近隣店であるというKさんをたずねてみた。「自然にこうなったのですが、なかなかいいですよ。この辺は大型店をやって失敗した人が多いので小型店を増やしているのです。第一に悪い客には遠慮なく注意出来ますよ。怒って来なくなっても、他の私の店へ行ってますからね。それに一軒だけ正午からやっていますから、他の店へ来た客もそちらへ行ってもらう。徹マンですか?それも一店だけは時々(ここでニヤッと笑ったから怪しいものだが)やりますが、やはり他の店の客も一緒だから効率がいい。もう一つありますよ。この前、二つ目の店の家主と家賃の値上げ問題でケンカしましてね。まあ、万一ひとつなくなっても仕方ないと思って、考えていることをヅケヅケ言いましたよ。そしたら、家主の方が折れましてね。一つの店だけだと恐くて言えないもんです。これも多数店舗の功徳かなあ。この辺でもう三つ手に入れると、だいたい全部ですから、道を歩いている愛好者は皆うちの客というわけになりますが、他の店は売りそうにもないし……」

―ところで、その資金と収支は

「資金は欲しい店があれば銀行にかけ込む。今、借金の分割払いして一店当り五万円くらいの純益です。ここは三十万くらいになりますから、それでいいんですよ。利益よりも、競争しなくてもよいから経営が楽だし、ちょっと、麻雀業の企業家になった気分で何ともいいもんですね」

効率の悪い仕事に資金をつぎ込むことはなかなか決断がいる。しかし、その店舗を売った人も細々ながらそれまではやっていたのであり、ただ、この店だけで食うには足りなかっただけである。K氏のように本拠があっての場合ならさして心配もないわけであろう。

とはいえ、この実行は大変である。廃める店は客がいない、ともいえるし、従業員が必要、資金効率が悪い、など欠点も多い。

しかし現在はもはや、小さな一つの店でお望みの刮潤を上げようとする時代ではないのかも知れない。また、そうは問屋が卸さない時世でもある。従って、事業は総て多くの店から少しずつの利益を集積してやっていく、いわゆるチェーン店方式の時代ではなかろうか。たとえば、喫茶店、料理店、名菓店からスーパー、デパートに至るまでみなこの方式によって栄えている状態である。

また、麻雀業は商品の多様化も出来ないし、中小店を大型店に変える事も出来ない。結局、小型店は店数を増やすことによってのみ成長の道が開けるといっても過言ではあるまい。

さて、それなら早速一つ物色してみようかと考えても、資金がない、というのが現実である。出来ればこんな場合、組合へ走れば融資が受けられる、なら結構だが、それにはまず、組合が事業協同組合でなければならないだろう。現在の組合を事業協同組合に改組する、店舗の買収資金は優先的に融資する。そして、かりに一人が一店ずつ買収したとすればどうなるか。一経営者当りの客数は間違いなく倍増し、水揚げ高は現在の倍額となる。もちろん、そこには金利、給料、家賃等の支出が伴い、純利益は何割かに過ぎないが、とにかく愉快なことには違いあるまい。

最後にこの問題について、経営センターのB総帥に意見を求めてこの稿を締めくくると。

「面白い案ですね。とにかく雄大無限で理論的には正しいですよ。ただ、実施がなかなか難かしい。しかし、小店舗一つで一家の生計を保とうとする時代は過ぎた―という考えは同感です。今まではそれで食えたから業者が増えた。今は、食えないから増えないということが出来ます。しかし、まだ素人の人が他人の口車に乗って居抜きで買う。困ったことだが、他人の商売は三割方良く見えるから卓舗も三割くらい過乗なところでしかストップしないのです。これは、どの商売でも同じで、ちょうどいいところでストップすることはあり得ないのですよ。とにかく近くに割合良い店が売りに出ている場合、それを現業者が買取るということは、業界からみても、その人からみても良いことですね。同業者の廃業は同業者の耳に一番早く入るわけですから、そのつもりでいれば結構あるんじゃないですか。そんなに利益を当てにしなければ、金利や返済くらいは心配いらんでしょう。私は、お金のある人でも、こういう資金は銀行借入が良いといっているんですよ。ある人なんか、近くの銀行で借入れて買ったら、そこの銀行員がどんどん来てくれて、借入れを目分で返していってくれるといっていましたが、そういう意味ではなくね…」

銀行があの店が潰れたら貸金が危いと思ったわけではあるまいが一石二鳥とはこのことか。「今一つ、この方法には皆さんが気づきにくい利点がありますよ。それは、事業は動かねば発展しないという点です。とにかく、じっとしていて発展はない。特に麻雀業は収入の上限がはっきりしているでしょう。それだけにどの方向にしろ動いてみることが大切ですね。そうすると自然信用が増加する。力が倍加するというわけですから、中小店は、特にそうありたい。この案も、この動いてみるための材料としては、なかなか適当なものです。また、多くの店を持つと事業に対する姿勢が積極的になるということもありますから、これは過当競争問題でなくても、やってみる必要がありますね」

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