1991年(平成3年)1月10日 第186号
情報の窓
麻雀と暦 暦研究科 石井秀行
麻雀の白發中は月・地球・太陽を表す
北海道新聞・昭和58年
11月16日夕刊に掲載。
札幌市の人口増がいちじるしく、西区を二つにわける話が出て久しい。合併した手稲町などの歴史的な流れを考えると、「手稲区」に落ちつくだろうが、私は「発寒(はっさぶ)区」を主張したい。発寒川などの河川によって運ばれた肥えた土壌を有する平野部分に、屯田兵はじめ農民が定住して拓けていったのが琴似手稲地区である。発寒川はまさにこの地区の母なる川の代表名であるからだ。
今一つ、少し”遊び”を許していただけるなら、発寒区が誕生することによって札幌の区名の中から、麻雀の風牌(ぱい)と三元牌との字牌、東・南・西・北・白・発・中の七種が全部揃うことになる。つまり東区、南区、西区、北区、白石区、発寒区、中央区となるからである。
ところで、この東南西北、白発中が、麻雀からの発想であることは事実だが、実は、そもそもの源流は、暦や天体とかかわりのある深遠な事柄なのだということも改めて認識していただきたい、麻雀は、一人十三牌ずつ持ち、四人で行うゲームである。
このゲームのスタートは、他の三人より手持ち一牌多い親の捨て牌からはじめられて、最後に上がる人は、一枚加えて十四牌となっている。四人というのは四季をあらわし、ゲームにおいて、その一人一人が十三牌有しているのは、一つの季節が十三週間あることを示している。十三週掛ける七日で九十一日、九十一掛ける四人分四季合わせて三百六十四日、親または上がりの人が他より一牌多く、これを加えて、一年三百六十五日となる。
白板(パイパン)の白は銀の光、しろがね、などと表現される月を表わし、月の天球上の経路を白道ともいっている。緑発(リューハ)の発は緑色に色づけられ、同系色のゆえか、麻雀仲間では単にアオといわれるこどもある。
世界初の宇宙飛行士の残した言葉に、「地球はあおかった」とある。緑発は地球をあ
らわしている。紅中(ホンチュン)といわれる中は、赤で字がかかれていて、赤道などと説明するまでもなく太陽を表わしている。すなわち、麻雀の白発中は、月、地球、太陽を表わしているのである。
最近話題になった明日香村亀虎(きとら)古墳で発見された玄武(げんぶ)の古代壁画でもわかるように、中国では紀元前のころから星の名から四神をさだめ、青龍(せいりゃう)は東方、朱雀(すじゃく)は南方、白虎(びゃっこ)は西方、玄武は北方の神とされてきた。
青龍は緑、朱雀は朱または紅、白虎は白、玄武は黒または紺が因縁のある色とされ、残りの紺色は、風碑の東南西北に用いられている。一方数牌をみると、索子(ソーズ)のほとんどが緑で、一部に紅が用いられ、万子(マンズ)は紺に紅、筒子(ピンズ〉は紺が主で一部に紅や緑が用いられている。これらの色のもとは、星からきていることがわかる。
麻雀の卓を囲む四人は、東を親として逆時計廻りで東南西北となる。これは地図などと逆で、地図の場合は、東北西南となっているのに気がつくはず。天空をあおぎみるようにして頭上に紙をかざした位置で方角を書き入れたものを卓上に置くと、通常の地図とは逆の麻雀用の配置となるのである。
中張(チュンチャン)牌七枚や、字(ツー牌七種は一週間を表わし、ム九(ヤオチュー)牌十三種五十二枚は、一つの季節が十三週、四季五十二週の意味がある。同一の牌が四枚ずつあることと、現在は使用されていないが、春夏秋冬の花牌は、文字通り四季を表わし、麻雀がまさしく暦に関係あることをはっきり物語っている。
麻雀は、宮中のゲームが一般化したといわれ、『紅中(ホンチュン)』は紅顔、『緑発』は緑髪、『白板』は白粉のこととして、女官たちの間に宮中遊技として楽しまれたとの説が一般的であるが、それよりも暦とのつながり方に説得力がありそうな気がする。昔から、天文・暦学は、帝王の大切な学問の一つとして、宮中で重要視されたのは事実なのである。
(札幌在住)