1989年(平成元年)12月10日 第173号
麻雀経営 べからず集 〈連載2〉
亡びる店・栄える店
的確な原因把握が運命の分れ道
昭和40年代のマージャン店は、どこへ行っても景気が良かった。学生街では午前9時頃から満卓の盛況、一般客相手の店も夕方6時には満卓になり、空いている店を探すのに苦労する状態だった。全自動卓などという「文明の利器」が出現する前だから1回ごとに手でかきまぜ、積み上げて楽しんだ時代だ。
都心部の店は予約しないと入れない状態で、今から思えばたいしたサービスをされなくても毎日のように通ったものだ。
その頃に比べて、現在のマージャン店は設備がデラックスになり、サービスも良くなっているのに、客の数が減っているのだから、実に不思議な現象といえる。もっとも、昔に比べて今はいろいろな娯楽施設がはんらんしているから、マージャンばかりしている人は少ない。特に大学生がマージャンを昔ほどやらなくなったことはマージャン店にとって大きな痛手だ。
われわれの世代(50-60代)は大学生でマージャンを覚え社会へ出てからさらに腕を磨き、接待マージャンで上手に負けて上司に褒められたものだが、マージャンをしない今の大学生は社会へ出てからも接待マージャンなどできるわけがなく、せいぜいカラオケ接待で終わってしまう。
そういうことが原因して全国的にマージャン店の数が激減し、最も多かった昭和53年の3万5800軒から63年の2万6500軒まで、26%減になっている。
マージャンファンとしては非常に寂しいことだが、冷静に考えてみると、廃業していった店には、それなりの原因があったのではないかと思われる。店数が少なかった頃は、何もしなくても客は集まったが、同業者が増えて過当競争の時代になると、経営努力をしない店は当然、淘汰(とうた)される。
逆にいえば、現在でも大いに繁盛している店は、それなりに客が集まる要素を備えているのだ。その要素にはいろいろあるだろうが、一つでも多くの要素を作ることが経営者の役目であり、そのための智恵と努力が店を繁栄させるポイントといえる。
廃れていく店、伸びていく店、それぞれに原因となるものがある。その原因を早く見つけて、悪い点は排除し、良い点はためらわず進んで取り入れ、常に客の立場に立って客の求めるもの(二ーズ)をしっかりつかんでいくことがマージャン店経営に成功するコツだ。
このシリーズでは、客の立場から見た店の悪い点を取り上げた。自分の店を振り返って再点検していただきたい。
③意外に汚ないトイレ
ビールを飲みながらマージャンをやると、どうしてもトイレが近くなる。一方、やっとツキが回ってきた時に相手がトイレに行くと、なんとなくツキが逃げてしまうような気分になって、「あいつ、わざとトイレへ行ってツキを変えようとしているんじゃないか」と勘ぐりたくもなる。
だから、「なんだ、また小便かヨ!」なんて言われるとつい我慢してしまい、ぎりぎりになってトイレへ飛び込む。
あわてて飛び込み、急いで用を足そうとするから、トイレの汚れ方は激しくなる。汚さないようにと訴える貼り紙なども全く効き目がない。
もちろん、これは男性客の話だが、トイレが男女共用で汚れ放題になっているような
店だったら、女性客が寄り付かなくなるのは確かだ。
水洗の男性小用便器でも、早く席へ戻ることに懸命で水を流さない客が少なくない。
これでは、たとえ汚していなくても臭気が充満するから、やはり後から入る人にとっては気分が悪い。まして詰まったままの便器など論外だ。客が知らせてくれないこともあるから注意が欠かせない。
最近はペーパータオルを備える店が増えて便利だが、急いで手をふきながら出るのでクズかごの中へ捨てた積もりが、周りへ放り投げたままになっているのをよく見かける。押し込むように入れないと入らないブタ付きクズかこの改良も必要だろうが、紙クズが一杯に詰まっていることがあるから、これでは「きれいに使ってください」と言う方が無理だ。
ロールタオルは、巻き取りが完全でないと引っかかって動かなくなり、それを無理矢理引っ張れは器具が壊れる。新しいタオルに交換しなければならないのに気付かないでいると、最後のたれ下がったタオルで何人もの客が手をふくことになり、気持ちの悪いことこの上ない。
このように、放っておけばトイレは極めてひどい状態になり、不快感を覚えた客は「どうせ汚ないんだから…」と投げやりな気持ちになって、悪循環を抱く。
そうならないために、経者や従業員は常にトイレを点検する必要がある。
昔のマージャン店は男性の専用物のようなものだったが最近は女性ファンも増えているから、できれば女性専用トイレを設け、それが無理ならせめて常にきれいに掃除して藷潔さを感じさせるようにしなければいけない。
客席の改善はしても、トイレにまで手が回らないという改装計画が多いようだが、これからは客席よりトイレの改善を優先するくらいの意識改革が必要だ。
洗面所のスペースは十分に取り、簡単な化粧品やヘアブラシなどを用意してもらえれば、なおうれしい。
なにしろマージャンを夢中で打っていると、頭髪は乱れ、顔はくすみ、掌はベトベトになる。一日の仕事を終えた後でのことだから、なおさらだ。できれば、すぐにひと風呂浴びてさっぱりしたいところだが……、とりあえず帰り際に手と顔を洗って、髪を整えたいと思う。
そんな時に、清潔で気の効いた洗面設備があればありがたいが、かえって手が汚れてしまいそうな洗面所だったら「この次はほかの店にしようかな」という気分にもなる。
④看板に偽りあり
どこの店へ行っても、たいてい置き看板や戸口や店内に営業時間が提示してある。「午前10時より営業」「営業時間午後4時~12時」「開店午後5時」といった具合だ。
その提示を信用して店へ行く。4人とも「今日こそは頑張ろう」と、心の中は一刻も早くパイをにぎりたい気持ちで一杯だ。はやる心を抑えながら店へたどり着き、入口のドアに手をかける。だがどうしたのか、ドアが開かない。
看板は「午後4時開店」となっていて、腕時計を見ると4時5分を回っている。それなのに入口は閉ざされたまま。こんなバカなことがあるだろうか。
といって、ドアをぶち壊して入るわけにもいかない。怒りと不快感を抑えて、やむをえずほかの店へ行く、その時4人は4人とも、店にだまされた、裏切られたという複雑な気持ちだ。
そして、店の経営者に対ある不満の声がポンポン出る。
「たまに早く来れば、この始末だよ、商売やる気があるのかねエ」
「不熱心だよなア」
「これからは、ほかの店にしょうぜ」
「ここだけが店じゃないからな」
これで、店側は4人の客を失ったことになるが、ただの「マイナス4」では済まない。
この4人の口から店側のルーズさが宣伝されたら、マイナスの数字はいくつになるか計り知れない。
その近辺にほかの店がなければ、客は15分でも30分でも待つかもしれないが、そんなことはまずありえない。
今日のように忙しい世の中では、たった5分の開店遅れでも客の怒りを買う。それも謝って済む問題ならいいが、その客が二度と現れないとすれば、謝ることもできない。
「マスター、このあいだ早く来たけど閉まってたじゃないか。そんなことじゃ困るよ」と文句の一つも言ってくれる客ならいいが、そんなに気のいい客ばかりではない。
経営者や従業員も長い間には、やむをえない事情で遅くなることもあるだろう。しかし、商売を甘くみてはいけない。
急用ができたら、代わりの人を頼むなど最善の努力をして開店時刻を守るべきだし、それがどうしても不可能ならせめて臨時休業の詫び文を張り出してほしい。
店側にとってどんなに大事な急用だろうと、客にとっては関係ないことだ。まして、正直に説明できないような理由での遅刻など話にならない。
また、「午後4時開店」と表示していて、最近は客足が遅いから実際には5時に開けるようにしたという場合には表示も「5時」に書き換えてほしい。
人間の顔にはそれぞれ違いがあるが、信用される顔でありたい。人間関係は信用の上に成り立ち、そこから友人が増え、人生の糧となる智恵も得られる。信用は目に見えない大きな財産だ。
看板は店の顔だ。看板に偽りがあれば、信用が崩れる。信用が崩れたら、商売はおしまいだ。この機会に店の看板をもう一度見直してほしい。