昭和61年4月10日 第129号
Mah Jongg Made Easy
三元牌はドラゴン
前号でロマンチックな「中国の古い役」を紹介したが、本号ではアメリカのマージャンを紹介してみたい。「チートイツ(七対子)」「リューイーソウ(緑一色)」という役はアメリ力生れだということをご存知だろうか。そのアメリカは西海岸・サンフランシスコやロサンゼルスでは結構マージャンが盛んなのだという。そのアメリカ・マージャンのルールブックから課訳して、ご紹介しよう。呼び方なども「パイ」のことを「タイル(かわら・壁材)」といったり、三元パイのこと「ドラゴン(龍)」といったり、向うの感覚はなかなかユニークである。日本のマージャンとくらべてみるのも一興ではありませんか。
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アメリカ・マージャンというと、日本人が、例えば留学生とか商社マンが、向うに行って広めたかのように思われ勝ちだが、実はそうではない。事実はまったく逆。つまりアメリカで初めて覚えて日本に持ち帰った人もかなりいるのである。むろん、アメリカには、本場の中国から直接伝わった。その伝導の役割は、華僑と帰米アメリカ人が担ったのである。
華僑は、母国のゲームであるから当然として、今ではユダヤ人の間にもなかなか盛んで、地区予選大会から全米選手権大会まであるという。ユダヤといえば、ユダヤ商法、ユダヤ商人。結局はマージャンの持つ知的複雑性、機敏性が買われるのであろうか?
ところで、この「ルールブック」を見ると、英語でのマージャン用語は、必ずしも中国語をそのまま踏襲してはいない。
日本語の場合は、もともと同じ言語族ということもあって、字句から発音まで、ほぼそのまま採り入れて何ら不自然さを感じないが、アメリカの場合は違和感があるのだろう。
また、もう一つ、言語性とともに、国民性の違いも大きいかも知れない。もともと日本は、他からどんどんモノを採り入れ、活用することが器用である。野球でもサッカーも、あるいはコンピュータでも、平気で横文字をそのまま便ってしまう。長いのは縮めて。パソコン、ファミコンなどは、その造語の興型の一つ。ジャン・シ(雀士)などの呼称は、まさに日中平和?を地でいく傑作である。
いずれにしても、日本とアメリカとでは、マージャンにつける名称は少々違ったニュアンスが感じられて面白い。パイの呼び方では、
ホンチュン(紅中)→レッド・ドラゴン
リューファ(緑発)→グリーン・ドラゴン
と、それぞれドラコンをつけているのはユニーク。
では小クイズ①、この伝でいくと、パイパン〈白板〉は何というか?(答は文末に)
左様、○○○○・ドラゴンが正解。ドラゴンとは龍という意味。その強力な性能に十分な敬意を払った呼び方ということか。
もっとも、ソープ(石けん)という面白い呼び名もある。マージャンの上では何のことかお分かりかナ?(これを小クイズ②としよう)
マンズ(万子)→キャラクター(文字)
ピンズ(筒子)→ドット(点)
ソウズ(索子)→バンブー(竹)
これらは、見た目の感じからの呼称ということであろう。
役を見てみると、中国語を意訳しているのが多い。
テンホー(天和)→ザ・ハンド・フロム・ヘブン(天が与えてくれた役)
チュウレンホウトン(九運宝灯)→ザ・ナイン・ゲート(9つの門)
ダイサンゲン(大三元)→オール・ドラゴンズ(すべての龍)
コクシムソウ(国士無双)→ザ・サーティン・オーファンズ(13人の孤児)
国士無双など、国中で並ぶ者のなき国士、つまり、天下第一等の人物というのが本来の意味である。
これを中国では、一九ハイを一役に凝集させて(壮大な国士に見たてて)いるのに対して、アメリカでは、13パイがつながりなく全くのバラバラだから”孤児”に見たてている。なるほど、いわれてみれば孤立パイに変りはない。つまり、米と中では、その”感覚”が全く正反対。むろん、どちらがよい悪いの問題ではないけれど、読者ならどちらの呼称に軍配をあげるだろうか。これが小クイズその③。
このように、アメリカ・マージャンは、機能により視覚により、あるいは意味によって、中国マージャンを分かりやすいように翻案して遊んでいるようである。
……だが待てよ、在米中国人は、中国語マージャンでやってるのだろうか、それとも英語マージャンでやってるのだろうか。(小クイズ④)
さらにいうならば、冒頭にあげたアメリカ生まれの役はマージャン国際化の一つのハシリといえなくもない。チートイツは、トランプのブリッジの役(セブン・カード)から採り入れられたものだといわれているし、リューイーソーなどは、我国でも学生の間などではすでに”オール・グリーン”という呼び方が結構広く行われている。
最後に一問。スーシーホウ(四喜和)をアメリカでは何というか。難しく考える必要はない。ヒント=東南西北を総称して”風”パイともいう。(小クイズ⑤)
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クイズ答
①ホワイト・ドラゴン
②〈白〉の別称。ホワイトドラゴンは石ケンのかっこうをしているから、親しみの呼称から「ソープ」ともいう。
③どちらともいえない。主観の問題。強いていえば、味わいのあるのは国士、現実にピッタリなのはオーファンズということか。
④一方的にどちらということはあるまい。地方により、相手により違ってこようから。アメリカは広いんですゾ。常識的?には、こんな答でよいと思うけど……。
⑤ウィンド。英語で”風”のことをウィンドという。