昭和56年3月10日 麻雀新聞第47号
「ブーからリーチへいつでも打てる魅力」
最近、「ひとりでも安心してリーチ麻雀が楽しめます。御気軽にどうぞ!!」という、いわゆる「バラ打ち」の店がふえてきているという。
そこで、今回はそういった「バラ打ち」専門の雀荘Zに潜入。実態を取材してみた。都内の遅くまで人通りの絶えない繁董街。ここらあたりは、ちょっと前までは雀荘といったらブー麻雀専門の店がほとんどだったのが、最近ガラリと様相が一変した。
ブー麻雀の店が、老舖の流行っているところ以外は、どこもリーチ麻雀をやり始めたのである。そもそもここらあたりでは少なかったリーチ麻雀のバラ打ちを、ある店が大衆レートで始めたところ、これが大当たり。場所柄、常時ほとんど満卓という盛況振りであった。すると、やや客足の遠のいていたブー麻雀の店も、一斉にこれに右へならえとなったわけである。
さて、今回潜入する「Z」もそういった店の一つ。
専従者が3人いつでも待機
時計の針は、十時を回ろうとしているのに、まだ宵の口という感じのするにぎやかな街路から、暗い階段に足を運ぶ。店の看板の電気こそ消えているものの、こうして誰でも普通に、いつでも店の出入りができる。ま己に繁華街ならではのこと。店のドアを開けると、
「いらっしゃいませ!」
メンバーの威勢のいい声が返ってくる。
メンバーというのは、単なる従業員とはちょっと違う。
バラ打ちの店の場合、客で四人揃わない時はメンバーが卓に入って麻雀を一緒に打つのである。そして、客がくれば、そこに案内する。一人客が帰れば、またしばらくは、そこを埋めるという具合にして、常に三人のメンバーが用意されている仕組みになっている。
卓に入っていない時は、お茶くみをはじめとした雑用、っまり普通の雀荘従業員の仕事をする。そして、たいていの場合、麻雀を打った時の勝ち負けは自分持ちだから、結構きびしい職業なのである。
早番、遅番などと一日の中で出番が決まっているとはいえ、結局ひと月では2・3日しか休めないで、給料が十二万くらいというメンバーの話を聞いたことがある。そうだとしたら、中で打つ麻雀で負けていたら、それこそほとんど残らない人もいることだろう。寮があって、住居が保証されているとしても、決して好待遇とは言えない。
ルールは厳格 半荘平均30分
「この店は初めてですか。」
マネージャーらしき人物がルール表を持ってやってきた。
いわゆる何でもアリのルール。ノーテンだと親が流れてしまうし、誰かが箱テンになると、その時点でゲーム・セットというルールなので、かなりスピーディーにゲームが進行するようになっている。半荘一回が平均したら30分といったところか。
ゲーム代はトップ払いではなくて、半荘ごとに一人ずつから均等に取る。
「ラスト!」
「はい、ありがとうございます」ブー麻雀スタイルのかけ声とともに、メンバーがゲームの終わった卓にすぐ飛んでいって、次の半荘のゲーム代を徴収する。
席があいたので、小生も後学のために、少し遊んでみることとなった。
席につき、牌をかきまぜ始めた途端、早速メンバーに注意されてしまった。
「この店は、完全伏せ牌にしてやっていますので……」
なるほど。その通りだ。そもそも麻雀というゲーム、伏せ牌にするに決まっている。トランプだって花札だって、くばる時に、カードや札が表裏むっちゃになったままでする人はいないのだ。麻雀にしたって当然のはず。
ところが、麻雀の場合、伏せたとしても、その後の洗牌の仕方によってすぐ表になってしまうことが多い。洗牌のやり方がまずいのだが、慣れてしまえば、ちっともめんどうなことではない。伏せ牌の方がずっと気持ちよく遊べるものである。
牌が表にならない様に注意しながらかきまぜて、ゲーム開始。
配牌を取り終えて、目に飛び込んできたのが赤五筒。さすがに、ちょっと前までブー麻雀の店だったらしく、赤五筒のほかに、赤五万、赤五索も入っていたが、これは何にもならないとのこと。もっとも、店によってはこれをドラにしているところもあるらしい。
先ゾモ気味の客がいると、メンバーが、
「すいません。先ヅモはお止めください」
とすぐ注意してくる。
先程の伏せ牌といい、先ヅモ禁止といい、なかなかしっかりしている。
バラ打ちの店の場合、良いマナーか徹底させなかったら、ダメである。しっかりとしたルールとマナーの徹廃、そのためには、しっかりしたメンバーが不可欠である。
小生の卓のメンバーは、伏せ牌の注意といい、左手を使わず右手だけで打つことといい、なかなか気持ちのいい態度だが、別の卓のメンバーは、牌を卓に叩きつけたり、ギャーギャー騒ぎながら打っている。こういうのはメンバーとしては失格だ。
半荘四回でちょうど二時間。やはり三十分平均である。
「客層も多様でフリーに人気」
ゲーム代は半荘ごとに300円だから、実質的には時間600円。セットの倍以上だから大きい。その分、飲み物はコーラ、コーヒーなど、サービスになっていたが、それくらいは何でもないだろう。
とにかくこの調子で昼間から続いているなら、経営者としては笑いが止まらないはず。でも、メンバーは交替制とはいえ、かなりハードな労働のように見受けられた。
さて、このバラ打ち雀荘がなぜ流行っているか。
取材してみてわかったことは、客層がさまざまなこと。水商売の人もいれば、サラリーマンもいる。大学生も、女の人もいる。皆、麻雀が打ちたい。しかし、メンツがいない、という人たちなのだ。
今までは、一人で雀荘に飛び込むのは恐いと思っていた入も多かったが、麻雀専門誌に広告を出したり、店頭での放送PRなどによって、低料金で安心して気軽に遊べる場であることが伝われば、需要は多いのだから、客は集まってくる。
いつでも好きな時に来て、好きな時にやめて帰れる、たしかに、とにかく麻雀をやっていれば満足というような客には、魅力的な場所だ。
ただし、人の出入りが激しく、落着いてじっくり麻雀を打ちたい、あるいは、社交としての麻雀を楽しみたいという人には、せわしなく、騒々しいため、敬遠したくなることもたしかである。
だから、セットの客とフリーの答の共存できる店が非常に少なくなってくる。
セットならセット専門、フリーならば、メンバーを使ってフリー専門としてやっていかざるを得ないのである。
しかし、先程も述べたように、一人で、いつでも好きな時に行って麻雀を打ちたいという人が多いこと。この人たちをどうやって雀荘に足を運ばせるか。バラ打ち雀荘の流行が、この解決策の一つの方向牲を示していることに間違いないと思うのだが、皆さんはどう思われるだろう。
(井原喜洋)