麻雀長屋のひとびと -第一回「プレミアムフライデー」-
- 2018/8/10
- ひといきコラム
「麻雀コラム」 連載第一回
麻雀大好き落語家の三遊亭楽麻呂師匠が「麻雀」で
現代社会を愉快に叩っ斬る!
第一回「プレミアムフライデー」
三遊亭楽麻呂
「誰かと思ったら八つぁんじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「ちょっと隠居さんに相談がありまして」
「わたしに相談?」
「ええ、近頃、月の最後の金曜日は3時ぐらいには仕事を終えて、街へ出て遊んだり、早く家へ帰って家族孝行しなさい、なんてことになっちゃんたんです」
「ほー、お上の方からお達しでもあったのかい?」
「そうなんですよ。しかし急にそんなこといわれても、アッしらのようなひとりもんは家へ帰ったってつまらないし、いきなり遊べったってねー。やることないんですよ」
「長屋にはそんな若い連中がいっぱいいるのかい?」
「山のようにいるんですよ。そこでみんな困っているから隠居さんに相談しに来たって訳なんです」
「そうか。ではそれだけ大勢の若いもんが手持ち無沙汰だったら、ひとつ、麻雀でもやったらどうだ」
「麻雀ですか? あっ、そりゃいいですね。普段からみんな個々にゲームではやっているからルールはわかるし、一同に会して、ワイワイ、ガヤガヤ、こりゃいいや。じゃ、誰かの家に集まってみんなでやります」
「オイオイ、待ちな。人の家でやるのもいいが、そうなると、そこの家のおかみさんや家族に気を遣わせてしまうから、どうだい、いっそのこと雀荘に行ったら?」
「あっそっか。そっちの方がいいですね。雀荘だったら、頼めばすぐにお茶を持ってきてくれるし、食事だって出してくれますよね」
「そうそう、それに雀卓が全自動だから、いちいち牌を積む必要もないし、最近では点棒の表示もあるみたいだ」
「そうですか。踏んだり蹴ったりですね」
「それを言うなら、至れり尽くせりだ!」
「あっそうだ。失礼しました。ところで、この辺りにはいっぱい雀荘がありますが、どこか隠居さんのお奨めところはありますかね」
「そうだなぁ『つもり荘』なんていいんじゃないか」
「『つもり荘』ですか。名前がいいですね。縁起がいいや」
「うん、それと行かない方がいいのは『まけ荘』と『ふりこみ荘』。ここはよした方がいいな」
「確かに、あんまりいい名前じゃないですね」
「それと老舗の『つきじ荘』、ここは古くなったから新しいところに移ろうとしたんだが、いろいろあって、今揉めてるようだ」
「はー、大変ですね」
「新しい店の目処はとっくについているんだが、この間、社長が替わってしまって、振り出しに戻ったようだ」
「早く決まるといいですね」
「そうだな」
「何にしても、ありがとうございます。みんな月末金曜の過ごし方でほとほと弱っていたんですが、隠居のおかげで楽しくなりそうです。長屋の若いやつらも喜びます」
「そうかい。そりゃよかった。しかし、こんな話をしていたらアタシも久しぶりに牌を握りたくなったな。人が足りない時には遠慮なく声を掛けておくれ」
「へー、わかりやした」
「それにしても、今時の若いもんで、お上のいうことに進んで従うというのは、見上げた了見だ」
「いやー、そんな風に褒められると照れちまいますが、本当のところ、進んでということでもないんです」
「お前さん、そう言うが、進んで月末金曜は3時で仕事を切り上げようとしてるじゃないか」
「だったら、隠居さんにだけ本当のことを言いますが、実はあっしはお上のさる偉い人と知り合いなんです」
「そうか、その方から、これは国を挙げてやるから、あなたも協力してくれって頼まれたんだな」
「いえ、はっきりと言われた訳じゃないんです」
「じゃ、どうしてなんだい?」
「その人の顔色を見て、忖度しやした」