麻雀新聞第276号 1998年(平成10年)7月10日
激変の時代 マージャン業は生き残れるか?【5】
もう量より質の時代
観察し、考える習慣を
周りにある日常品は、よく考えて生み出された物だ。素材の特徴や、人間の習慣、カなどを研究して作られる。物がなぜこんな形や色なのか?と意識して観察し、考える習慣が大切だ。無意識で使う人と考える習慣のある人とでは、「常識」の基準が大きく違ってくる。
どこにでもあるペットボトルのネジを見てみよう。固いポリエステル製のボトルのネジ部分は適度な薄さになっていて、反発力と固さを持っている。一方のキャップのネジには、より軟らかいポリエチレンやポリプロピレンを使って、ネジを押す力によって変形し、隙間をなくすようになっている。蓋を開ける時は、最初に力が要る。だから、力を入れてヨイショと半周緩める。それから3周ていど回す。回す同数は、中身が漏れない限り、少ない方がいい。
ネジ山を6個以上にしたメーカーがあったが、失敗した。だんだんきつくなってくるので、力を入れ過ぎてキャップが割れるという事態になったわけだが、消費者の習慣を知らなかったからだ。
一般にポリ袋と呼ぶ食品包装袋についても、常識がない。「ポリ袋」入りのラッキョウやキムチのにおいが冷蔵庫の中にこもって困った経験があるはずだ。同じように見える「ポリ袋」でも、樹脂の分子の大きさに差があり、においの出るものと出ないものがある。一般的にはポリエチレン製よりポリエステル製の方がにおいを通さない。ただ、ラミネート(張り合わせ)したものもあり、素人には区別できないので、食品包装袋を効果的に再利用するのは難しい。
政治家がよく使う「対立軸」という言葉がある。社会のトラブルや利益分配の背景には、必ず対立する層がある。そのどちら側に味方したら多く票を集められるか、できたら画策して両方から票を獲得したい、ついでに、それが利権に結び付いてお金になれば、なおいい――というように、政治家やその秘書には素晴らしいアイデアマンが多く、「対立軸」を見付けるために観察力を養い、問題処理のための情報集めをしている。お金のかからない選挙を可能にすれば、その頭を国のために、この不況を脱するアイデアを出すのに使えるのになあと思う。
商品企画の第一歩に「逆転の発想」というのがある。新しい物を作る時に、サイズや色を思い切って変えてみることだ。極端な発想からスタートして、矛盾点や欠点を取り除いていく。すると、これでなくては」という特徴が見えてくる。発想は誰にでもできるが、それを事業化するのは難しい。商品にするためには、素材・加工・包装・運送・販売・宣伝と、多くの常識が必要だ。大企業では衆知を集めて相互チェックできるが、どうしても残る不確定部分の判断と、その責任の取り方などで時間がかかる。中小企業のいいところは、少ないメンバーで勉強して、勇気を持ってスタートできることだ。。しかし、歴史のある大企業には、中小にはない「怪我をしない方程式」がある。企画チェックマニュアルやサービスマニュアルなどを入手して、大企業のいいところだけをいただくことだ。
店の活性化も、同じ手法で考えられる。素晴らしい企画を考えて店に個性を持たせると、賛同する顧客は増えるが、対立軸の反対の極にいる顧客は離れる。政治家と同じ考え方をするなら、額客数を増やす方向を目指すのがいい。しかし、これからは量より質の時代だから、限られた顧客を相手に客単価を上げたり、来店回数を増やすことが大切だ。
次に、いつも行く理容店にアドバイスして成功した事例を紹介する。この店は、時間の自由のきく高齢者の電話番号を聞いておき、手の空いた時に電話連絡して来てもらう案内を始めた。30日に一度のサイクルを毎月1日ずつ早く案内することによって、現在の来店サイクルは20日ていどに短縮した。待合室には、健康、旅行、グルメの本をそろえ、今にお年寄りは皆、病院からここへ移ってきますよ」と店主に喜ばれた。
(つづく)