「麻雀コラム」第81回
麻雀大好き落語家の三遊亭楽麻呂師匠が「麻雀」で現代社会を愉快に叩っ斬る!
「さあさあ隠居さん、お店に入りましょう」
「エレベーターで1階から上がってきて、お店の自動ドアの前に立つと、初めて入るお店だとドキドキするな」
「そうでしょうね。アッシはいつも来ているお店ですが、隠居さんと他のお二人は初めてですもんね」
「そうだ。おやっ、この麻雀荘は繁盛しているな」
「いつもお客さんでいっぱいなんです」
「最近の麻雀ブームを反映してるようで、この光景を見るだけでもアタシはうれしくなる」
「空いてる卓はありますかね?」
「右側の手前から2卓目が誰も座っていないようだ」
「そこだけか」
「八っつぁん、ガッカリしてるな。むしろ一つだけ空いていたということでラッキー、落ち込むことではないだろう」
「実はアッシはいつも使っている定番の卓があるんです」
「そんなこと言ったって、こういう所は早いもの順で卓が決まるから、わがまま言ったってしょうがないだろ」
「でも毎回座る卓が決まってるんです」
「だったら開店と同時に来るとか、あらかじめ予約しとかなきゃ」
「そうですよね。うっかりしたなぁ。アッシはいつもの卓でないと勝つ気がしないんですよ」
「験担ぎってわけだな」
「たまたま他の卓でやった時があり、その時はボロ負けだったんです」
「それでいつもの卓以外ではやりたくないと」
「ええ、だから今日もその卓が空くまで待ってもいいですか?」
「冗談じゃない。まだ午前中だ。いつ空くかわからないし、下手すりゃ何時間も待つかもしれない。今空いているところでいいじゃないか」
「これは譲れないポイントなんだけどなぁ。隠居さんは、験を担ぐ上でのこだわりの場所ってないんですか?」
「アタシの験担ぎなんて可愛いもんだ。負けた次の回はカツ丼を食べてから出掛けた理、駅まで歩く道順を変えたり、せいぜいそんなもんだ」
「そんなに強烈なもんじゃありませんね」
「八っつぁんみたいに強硬に卓にこだわる人にはあまり会ったことがないな。ところで座りたいのはどの卓だ」
「一番奥の窓際で大きな空調機の前の卓です」
「広いから良くわからないが…。あっ、あそこだな」
「そうです。テーブルナンバー17番です」
「それぞれのテーブルに番号がふってあるのかい。で、17番の卓」
「はい」
「17番という数字が好きなのか?」
「そうじゃありません。たまたま相性が良かった卓が17番だったってだけです」
「そうかい。しかし八っつぁんのゴリ押しでずっと待たされるのは困ったもんだ。あれっ?」
「どうしました、隠居さん」
「17番の4人が荷物を持って立ったぞ」
「帰るんですかね?」
「ずいぶん早いな。いや、そうじゃない。空いてる卓に移動しただけだ」
「どういうことだろう。ちょっと店員さんに聞いてきます」
「どうだった?」
「すごい方です。アッシが17番にこだわってるのを知っていて、卓を譲ってくれたそうです」
「奇特な人だな」
「いやー助かりました」
「しかし、譲ってもらって良かった良かったでは済ませられないぞ」
「わかってますよ。何かお礼をしないと」
「どうする?」
「たぶんあの2人は夫婦ですよね」
「確かにそんな雰囲気だ」
「じゃあ、奥さんにポルシェをプレゼントしましょう!」
「八っつぁん、かなり大きく出たな」
「といっても本体なしの鍵だけですが」