コラム「麻雀長屋のひとびと」【第78回:全冠制覇】 三遊亭楽麻呂
- 2023/11/30
- 麻雀コラム
「麻雀コラム」
第78回
麻雀大好き落語家の
三遊亭楽麻呂師匠が
「麻雀」で現代社会を
愉快に叩っ斬る!
「いやー藤井七冠がやりましたね」
「まだ21歳、驚きだ」
「まさかこんなに早く八冠を達成できるとは思っていませんでした」
「今までに将棋のタイトルを独占した人は升田(幸三)、大山(康晴)、羽生(善治)と3人いたが、八つのタイトルをすべてというのは初だ」
「前代未聞ですね」
「アタシは羽生九段が七冠を達成した時のことは今でも覚えている」
「いつのことですか?」
「もう25年ぐらい前のことだ」
「やっぱり世の中大騒ぎで」
「もちろん! アタシはその時思った。羽生さん以降でタイトルを総ナメにする人はもう出てこないだろうって」
「それほど大変なことなんですね」
「連勝もそうだった」
「どういうことですか?」
「これはさらに前、35年ぐらい前だが、当時の神谷(広志)五段が28連勝という前人未到の大記録を打ち立てた」
「28連勝! 天才が集まる将棋界で28回も連続で負けないだなんて信じられません」
「だろ? アタシもそう思った。そしてこの記録は以後絶対塗り替えられないだろうと」
「実際そうなんじゃないんですか?」
「長い間そうだったが、藤井新八冠がデビュー間も無くあっさりと29連勝して更新してしまった」
「やっぱり怪物だ」
「そして八冠目獲得のタイトル戦を観て、藤井さんは普通の人じゃない、選ばれた人なんだとつくづく思った」
「選ばれた人?」
「そう。将棋の神の後押しがあるとしか思えない」
「ミラクルでも起きたのですか?」
「近いな。八冠目は『王座』というタイトルだが、保持していたのが永瀬(拓矢)王座だ」
「やっぱり強い人なんでしょうね」
「強いなんてものじゃない。才能、努力、どれをとっても藤井八冠に決して引けを取らない」
「じゃあ激戦になったんでしょうね」
「ところが最後の2局は2局とも終盤で永瀬王座に信じられないミスが出て、藤井さんが大逆転勝ちを収めた」
「えっ、そうなんですか」
「100%と言ってよいくらい永瀬王座が勝っている局面からの転落だ。普通ならこの番勝負は3勝1敗で永瀬王座の防衛で終わっていたはずだ」
「藤井八冠は『運』も味方につけたんですね」
「いやいや、『運』という一言ではとても表せない人智を超えた力のような気がする」
「なるほど、将棋の神に愛されているってことですね」
「そう思う」
「そういやアッシはMリーグなんかの録画を観るのが好きなんですが、似たようなことはありますね」
「そうかい?」
「すごい役満でアガった時なんかまさにそうで、巻き戻して映像を観ると、他の人がターツ選択で裏目ったとか、ここで鳴いていればツモ番がズレていたとか、イーシャンテンを崩して高い手を目指していなければアガっていたのにとか、細かい幸運の糸がつながって成就してることがよくあります」
「つまり、その時は麻雀の神が後押ししてくれたというわけだ」
「ともかくこれからアッシは麻雀大会に行ってきます」
「そうかい。では健闘を祈っているぞ」
「今日は藤井八冠にあやかっていい成績が収められる予感がしてきました」
「それはいい兆しだ。では八っつぁんも八冠獲得となるかな」
「アッシにはそんな大それた野望はありません」
「じゃあ何を狙っているんだ?」
「もちろん、今日だけの《アレ》です」