「麻雀コラム」
第77回
麻雀大好き落語家の
三遊亭楽麻呂師匠が
「麻雀」で現代社会を
愉快に叩っ斬る!
「大変なことになりました、隠居さん」
「血相を変えてどうしたいんだい、八っつぁん」
「アッシの知り合いの奥さんがストライキを始めたんです」
「それは穏やかじゃないな。しかし今時ストライキなんて珍しいな」
「確かにあんまり聞きませんね。隠居さんが若い頃はずいぶんあったんですか?」
「それは年中行事みたいだったな」
「へー、じゃあストライキなんて慣れっこだったんですね」
「そうそう。懐かしいな」
「どんな人たちがストをやったんですか?」
「それこそ多岐にわたる、一番インパクトがあったのが鉄道だ」
「電車が止まっちゃうんですか?」
「そうだ」
「今ではそんなことがあったなんて信じられないですね」
「だろうな」
「たとえば首都圏ではどんな電車が運休になったんですか?」
「私鉄、地下鉄、それから今のJR、当時の国鉄だ」
「大変ですね」
「春になると賃金上げろと経営側に圧力をかけるために列車をストップさせた」
「あっ、春闘ってやつですか?」
「その通り」
「しかし、毎年恒例だったストがどうして下火になったんですか?」
「それには大きなキッカケになる出来事があった」
「何です?」
「スト権ストだ」
「えっ、意味がよくわかりません」
「つまり、私鉄は民間の会社だからスト権が認められていたが、国鉄は公務員に準じていたからストが許されていなかった」
「へー、そうだったんですか?」
「そこでスト権を認めろというストをした」
「つまりウイルスに感染しないように、そのウイルス起源のワクチンを体内に入れる、みたいなもんですか?」
「お前さんのたとえはいつも意味がわからない。それとはまったく違う」
「それでどうなったんです」
「国鉄の労働者側はかなり本気だった。スト権を獲得するまではテコでも列車を動かさないという決意をしていた」
「実際に長い間止まっちゃったんですか?」
「昔のことだからはっきりは憶えてないが、一週間ぐらいは止めた」
「じゃあ物流から通勤まですべてがマヒしてしまいますね」
「そこが狙い目だった。政府がネをあげて白旗をあげるのを待っていた」
「さすがに国鉄が一週間も止まったら世の中が混乱してストを認めるしかないですね」
「それがそうじゃなかった」
「えっ、どうしてですか?」
「トラックを使って貨物輸送を代替したり、私鉄や地下鉄に振り替えたりで、大打撃とはいかなかった」
「目算が外れたんですね」
「そのうち世論がいい加減にしろという感じになってきて、結局ストは止めざるを得なかった」
「そんなことがあったんですね」
「ところで知り合いの奥さんはなぜストに踏み切ったんだ?」
「彼女の大事なものを亭主が外国に売ろうとしたんです。それで怒って家事を放棄し、鍵をかけて彼を家に入れないようにしたんです」
「どの辺に家があるんだ」
「池袋の西側、つまり西部地区です」
「でもお前さんが困ることはないだろう?」
「いえ、彼の家で麻雀をやろうと思っていたんですが、入れなくなっちゃいました」
「だから常日頃から言ってるだろう。麻雀は人の家じゃなくて雀荘でやれと」