「すいませーん、店員さん、コーヒーありありでお願いします」

「八っつぁんがそう言うとアタシも何か飲みたくなってきたな。こっちはコーラお願いします」

「隠居さん、コーラなんて珍しいですね」

「麻雀で頭をフル回転させているから、身体が糖分を欲してきたのかな」

「しかし、こうやって打っていても、呼べばすぐに飲み物や食べ物を持ってきてくれるなんて、雀荘はありがたいですね」

「本当だ。誰かの家でやってたら、こうはいかない」

「まさか奥さんやお家の人に催促はできませんもんね」

「まさに雀荘さまさまだ」

「そういえば東海道新幹線のワゴンサービスがこの間廃止になりましたね」

「いやー残念だ。さみしいな」

「それこそ座席に座っていながら、飲み物や食べ物を注文できて気軽に飲んだり食べたりできて便利だったのに」

「アタシもカミさんの実家に帰る時はひかり号に乗っていたからずいぶん重宝していた」

「アッシも出張に行く時の楽しみのひとつでした。仕事自体はつらいですからね」

「へー、八っつぁんにされる仕事の方がつらいんじゃないかい?」

「まぜっかえさないでください」

「アタシはビールにつまみ、腹が減った時には弁当といろんなものを買ったな」

「そうでしょうね」

「八っつぁんも似たようなもんだろ」

「確かにそうですが、一番好きだったのはアイスクリームでした」

「へー、アタシは一度も食べたことがないな。そんなに美味しかったかい?」

「ともかく固いんです」

「アイスが?」

「そうです。アッシは人間はやわらかいんですが」

「そんなことは聞いてない」

「とにかくコッチンコッチンで、プラスチックのサジを使ってもビクともしないんです」

「じゃあ食べられないじゃないか」

「だから長い時間かけて溶けてやわらかくなるのを待って食べるんです」

「八っつぁんは気が短かったんじゃないかい?」

「まあ、そういう時もありますが、新幹線でアイスを食べる時は気が長くなるんです」

「オヤオヤ」

「ま、もっとも麻雀で精神が鍛えられたというのもあります」

「そうかい」

「カッとなったら敗けですから、どんな時も冷静になるようになりました」

「麻雀は人間を大きくするな」

「そうですね。自分でも麻雀のおかげで人間ができてきたと思います。ともかく、アイスも溶けるまで気長に待つことができました」

「それだけ待ったら美味しさも格別だろうな」

「もちろんです。でもそれが食べられなくなるのは寂寞の思いです」

「東北や北陸の新幹線にはまだあるんだろ?」

「そうですね。しかしアッシは東海道新幹線に一番よく乗るからなあ。何で廃止にしちゃったんですかね?」

「いろいろ理由があるが、まずは駅の売店やコンビニが充実してきて、事前に用意する人が増えてきたことだ」

「売り上げに影響が出てきたんでしょうね」

「それと人手不足。これが一番大きいかもしれない」

「今後働く人を確保するのが難しくなるとか?」

「そうだ」

「確かに大問題ですね。麻雀だって4人揃わないと成立しませんからね」

「その点、この雀荘に来ると誰かしらいて卓を必ず囲めるので、この雀荘はありがたいな」