【追憶の麻雀】第60回「麻雀経営 べからず集」

追憶の麻雀

1990年(平成2年)3月10日 第176号

 

麻雀経営 べからず集 〈連載5〉

 

努力なければ亡びる運命

 

昭和40年代のマージャン店は、どこへ行っても景気が良かった。学生街では午前9時頃から満卓の盛況、一般客相手の店も夕方6時には満卓になり、空いている店を探すのに苦労する状態だった。全自動卓などという「文明の利器」が出現する前だから1回ごとに手でかきまぜ、積み上げて楽しんだ時代だ。

都心部の店は予約しないと入れない状態で、今から思えばたいしたサービスをされなくても毎日のように通ったものだ。

 

その頃に比べて、現在のマージャン店は設備がデラックスになり、サービスも良くなっているのに、客の数が減っているのだから、実に不思議な現象といえる。もっとも、昔に比べて今はいろいろな娯楽施設がはんらんしているから、マージャンばかりしている人は少ない。特に大学生がマージャンを昔ほどやらなくなったことはマージャン店にとって大きな痛手だ。

 

われわれの世代(50-60代)は大学生でマージャンを覚え社会へ出てからさらに腕を磨き、接待マージャンで上手に負けて上司に褒められたものだが、マージャンをしない今の大学生は社会へ出てからも接待マージャンなどできるわけがなく、せいぜいカラオケ接待で終わってしまう。

 

そういうことが原因して全国的にマージャン店の数が激減し、最も多かった昭和53年の3万5800軒から63年の2万6500軒まで、26%減になっている。

マージャンファンとしては非常に寂しいことだが、冷静に考えてみると、廃業していった店には、それなりの原因があったのではないかと思われる。店数が少なかった頃は、何もしなくても客は集まったが、同業者が増えて過当競争の時代になると、経営努力をしない店は当然、淘汰(とうた)される。

 

逆にいえば、現在でも大いに繁盛している店は、それなりに客が集まる要素を備えているのだ。その要素にはいろいろあるだろうが、一つでも多くの要素を作ることが経営者の役目であり、そのための智恵と努力が店を繁栄させるポイントといえる。

 

廃れていく店、伸びていく店、それぞれに原因となるものがある。その原因を早く見つけて、悪い点は排除し、良い点はためらわず進んで取り入れ、常に客の立場に立って客の求めるもの(二ーズ)をしっかりつかんでいくことがマージャン店経営に成功するコツだ。

 

このシリーズでは、客の立場から見た店の悪い点を取り上げた。自分の店を振り返って再点検していただきたい。

 

⑨見えない所も清掃を

 

開店早々のマージャン店は気分がいい。パイは磨かれていて滑りがいいし、自動卓のクリーンマットもきれいだし、灰皿やサイドテーブルもピカピカだ。

 

「さあ、場所決めだよ」久し振りの対戦なので、みんな張り切っている。

「きみがチーチャだ」

「チーチャマークはどこだ」

 

どこかの点棒箱にあるはずだと、開けてみてびっくりした。点俸箱の隅にタバコの灰

が白く残っている。

 

「ハハーン、パイやマットは磨いても、点棒箱の中まではふかなかったな」

 

いい気持ちはしないが、仕方がないから戦闘開始だ。

 

1回終わってトイレに立ちカウンターのそばを通ってまた驚いた。カウンターの裏側には計算書やメモ用紙、古新聞、古雑誌などが雑然と積まれていて、物置小屋をのぞいたような錯覚を覚えた。奥の厨房もチラッと見たが、出前物のどんぶりや皿が汚ならしく重ねられ、周りに割りばしが散らかっている。ふきんともぞうきんとも見分けがつかない、薄汚れた布きれも放り出されている。たまらなく不潔な感じだ。

店内がきれいに掃除され、整然としているので、ひどく対照的に見える。

 

席に戻ってから、もしやと思って自動卓の下側をおしぼりでふいてみた。案の定、おしぼりはタバコのヤニで茶色くなっている。

目動卓の下側は、ちょうどひざが当たる所だ。そこがヤニで汚れていれば、客のズボンも汚れてしまうだろう。

 

さらに、イスの背の内側をおしぼりでふいてみると、卓の下側ほどではないが、うっ

すらと色が付く。特に夏になると、上着を脱いでワイシャツ姿になることが多いから、白いワイシャツなどはたまらない。帰宅してみたら、ワイシャツの背中やそで口が薄茶色になっていたということになる。

マージャンに負けた上に、シャツやズボンまで汚れたというのでは、泣っ面にハチでおまけに女房には「どこで汚してきたのよ!」と怒鳴られるし、揚げ句の果てには「マージャンなんて……」ということにもなりかねない。といって、店にクリーニング代を請求するのも格好が悪いので、ついそのまま済ませてしまうが、当然、その店には二度と行く気にならない。

 

店内の壁や床、目動卓の表面など、目に見える部分の掃除は行き届いていても、目に見えない部分は意外に忘れられている。

 

しかし、便所と台所を見ればその家のすべてが分かると昔から言われている通りで、特に厨房やトイレ、エアコン・空気清浄機のフィルターなどは客の衛生にかかわる部分だ。

表面上の整理整とんは誰にでもできる。目につきにくい部分の清掃と整理整とんこそが、客商売にとって最も大事なことなのだ。

本当に安心して遊べる店、それは見えない所まで心配りがされて、清潔な感じを与えてくれる店だ。

 

『えこひいき』は禁物

 

「今日あたり、あの人たち来るかもね」

「そうね。あの人たち一番感じがいいものね」

 

こんな会話が従業員の間で交わされている。話題の人たちが現れたとなれば、たぶんそのグループは大歓迎を受けることだろう。いや、グループというより、その中の特定の人かもしれない。

 

男前で、気前もいい、たまにはお土産まで持ってきてくれる。そんな客なら、ちょっとねたましいけれども、従業員にもてるのも仕力がない。どんなにもてようと他の客には関係ないから構わないが、接客面で「えこひいき」をするのだけは許せない。

 

第一に迎え入れ方から違ってくる。「いらっしゃいませ」の言葉一つでも、ニコニコしながら入口まで迎えに行く。カバンやコートがあれば「こちらへお預りしましょう」と進んで手を差し出す。

それ以外の客に対しては正反対だ、省略して「いらっしゃい」になるか、省略しないとしても、笑顔が伴わない。カゥンターの中から動こうともせず、荷物があっても、勝

手に卓の近くへ置けばいいといった顔付きだ。

 

マージャンをやっている他のグループは、こうした一運の言勤に無関心なようでいて実はちゃんと見たり聞いたりしているのだ。「われわれへの応対とはだいぶ差があるな」と、腹の中では面白くなく思っている。

 

その連中が先に頼んであったお茶が、来たばかりの「いい人たち」より後回しにされでもしたら大変だ。

「なんだい、この店は。同じ金を取って、客を差別するのかよ!」

こうなると、意地悪もしたくなる。タバコだ、ジュースだ、酒だとうるさいくらいに頼んでやる。金を払うのがしゃくなら、お茶、水、おしぼりを要求したり、「暖房が効きすぎだ」とやって、てんてこ舞いさせてやる。

店側も腹の中で「うるさい客だな」と思うから、それが自然に態度に出てくる。まさに悪循環で、到底うまくいくはずがない。

 

こういうことは、古い店ほど起こりやすい。何年もその店へ通っている客は常連だから気軽に店へ入るし、経営者や従業員も顔なじみになって親近感を持っている。ところが、新しい客はなじみが薄いから、なかなか打ち解けて話をするまでには至らない。

 

これは感情の問題だから、全てを同じにしろというのは無理だろうが、接客態度やサービス面で差をつけるのは良くないことだ。

荷物の扱いやお茶の回数が違い、ビールのお酌までしてやるとなれば、他の客は文句の一つも言いたくなって当然だ。特定の客の一肩をもんだりするに至っては、周りの客は、ばかばかしくてやっていられなくなってしまう。

 

客商売なら全ての客に対して平等でなくてはいけない。

新しい客も、いずれは常連客になる可能性がある。常連客を育てるためには、一見(い

ちげん)の客をおろそかにすることなく、むしろ古い客より大事に扱うくらいにしなければならない。

 

何年も通っている客は店の「根っこ」として大切にし、新しい客はその根っこから伸びる枝や葉として育てて初めて一本の木となり、やがて花が咲いて実が成る。

根っこがなければ木は枯れてしまうが、根っこばかりで枝が伸びなければ、花も咲かず、実も成らない。えこひいきすることなく、全ての客に平等に接することが、おいしい実を成らせるためのポイントだ。

負けた客をいたわれ

 

マージャンは勝負事だから誰かが勝って、他の誰かが負けることになる。誰でも勝ち組に入りたい気持ちは同じで最初から負ける積もりでマージャン店へ行く者はいない。

不幸にしてトータルで負けて帰る時のむなしさ。腕には自信があるのに、ヘボがバカヅキしたために負けたなどという時は、余計に気分がすぐれない。店のママや従業員がそのヘボを応援したりすると、パイをぶん投げて帰りたくなる。

 

「いつも負けてるんだから今日は頑張ってね」

「やあ、あがれた、マンガンねー」

 

聞いている方は腹の中で面白くない。「なに言ってるんだ、いつも負けるのは自分が下手だからじゃないか。いま負けてるのはオレの方だぞ」と言いたくなる。

誰だって負ければ面白くない。ふだん平均して勝っていたって、負けている時は腹が立つ。

 

そんな時に、頼んだ食事が遅くなったりすると、なおイライラして、店の人に当たり散らす。

 

「◯◯◯頼んでくれたのかい?」

「はい、頼みましたよ」

「なんだよ、遅いじゃないか。催促しろよ」

 

言葉遣いもだんだん荒れて相手が従業員だと余計に乱暴になる。店側も気を利かして「すぐ催促します」と受け流せばいいものを、「ちょうど食事時だから混んでいるんですよ」などと返答するからいけない。

 

「分かってるよ。だから催促しろって言ってるんじゃないか!」

 

ふだんはおとなしい人でもマージャンに負けると人が変わったように口のきき方が乱暴になったりする。この点を接客する側としてよく認識しておかなければいけない。ゲームも3回目、4回目になると、その日のツキの女神に見放された人がはっきりしてくる。その時が店側の腕の見せ場だ。

 

「調子はどうですか?あがれるようにアガリ(お茶)をお持ちしました」

 

こうした心遣いがうれしいのだ。ツイている客は放っておいても一人でご機嫌だが、負けている客は孤独にじっと耐えている。それを慰め、かばってあげられるのは店の人だけだ。

 

といっても、すべての客に公平に接するのが原則だから負けている客に対しても極端な接し方は避け、さりげなく慰めてほしい。

 

Aさんがリーチをかける。すかさずBさんが追っかけリーチ。ツイてないAさんは一発でBさんに振り込んでしまつた。

 

「今日はツイてませんね。でも、この次は頑張ってくださいね」

 

こんないたわりの言葉が店の人からそっとささやかれたら、マージャンに負けても、気分を和らげて帰れそうな気がする。

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