【追憶の麻雀】第43回「都内経営者の覆面座談会」

追憶の麻雀

昭和61年3月10日        第128号

都内経営者の覆面座談会

新法に適応した飲食物の提供は、利益を追求する姿勢でやると他の接客サービスがおろそかになりかねない。漫然と流れに乗ることは危険である。厳しい年だけに、積極的な戦略も大切だが、じっと我慢もまたひとつの戦略である。我慢しているだけでは、時代の流れに乗り遅れてしまうから、経営意識の変革や勉強が必要になる。マージャン営業は接客業が基本である。従業員の有無にかかわらず、経営者自身が接客サービスの基本をマスターすることが、これからのマージャン業ではないか。業界の未来を担うのは、経営者一人ひとりである。

客は出前より300円得

飲食提供精神的負担あり

司会  インテリアを豪華にしても、食器が片付いてないと目立ったり、厨房設備をキチンとしても整理する住事が大変ですね。

―うちは厨房はまるっきり別室にしてあり、戻す皿は各フロアで洗ってくる。厨房には私を含めて3人いるが、1日最低3フロアで70食がノルマになっている。仮に500円としてーカ月で85万くらい。原材料が約20万。ガス、水道代が10万ちょっと、人件費を引くと20万くらいしか残らない。出前を同じ数だけとって100円ずつ乗せていくと20万になる。だけど、出前で同じものを食べるとなると、お客様は300円ほど余計に払うことになる。だから僕は、自分の店で出すことはサービスだと思っている。それに、責任を持ったものが出せますから。そのために1卓分のお客様が増えれば、そこからあがるゲーム料は5時間で1万円になる。どこまでがサービスになるのか、どう利益を追求していくのかが問題だ。

司会  その意識に立つと設備することがサービスなんだという考えを持てばいいわけですね。

―食事のメニューにしても、何種類かに限定して、これは出せますという方が真実味があるのじゃないか。

―いや、自分の所でできない物を出前で注文しても来てくれない。たまに特殊なものを一つ、二つ頼んでもダメだよ。

―自店で食事を作るようになると、今までの出入業者とうまく関係を保つのは大変ですね。

―無理です。

―大切なことは、お客さんは日本人だということ。シャリが良くて味噌汁とお新香がおいしければ、おかずはちょっとしたものでも召し上がってもらえます。

司会  飲食物を提供するとなると、精神的な負担は大きくなりますね。

―大変なのは後片づけね。

―僕は車で土、日は必ず買出しに行って目一杯買ってくるが、そういった仕入れひとつとっても労力と気の使い方は大変です。

―僕はこういうやり方もあると思う。厨房の施設も保健所の許可を取れるところまでそこそこにやって、出前のある時は出前を、あくまでうまい店から取る。9時に出前が終るなら、9時から12時は自分の所でやりましょうというやり方もあるんじゃないか。

司会  飲む方のケースはどうでしょう。

―今までは、まずい酒でも我慢して飲んでいたということがあるが、今度は銘柄指定が出てくる。飲食物自体を商売プラスサービスと考えたら、そこまでニーズに合わせることも必要でしょう。

司会  アルコールとなると、今度は突き出しに気を使わないといけませんね。

―うちは最初、飲食物を出していたが、これは無理だと思い、食物は出前物にして、その代わり今まで大変だった労力を突き出しに回せと、絶対に他にないような突き出し、高くて良い突き出しということで、突き出しにうんと金と力を入れている。フリーチャージで出すのと有料とあって、別口に突き出しとして4種類くらい300円から500円くらいでメニューに書いておく。他の店と違う特色を出し、総体的な売り上げをのばしています。

―酒の方が楽ですね。

―うちの突き出しのバリエーションは、原則として4種類くらい作る。その他にかわき物が何種類かはある。

パブ・スナックから

転業もボツボツ

司会  ところで前号のなかで、スナックからマージャン店に変わったという話は、飲食店からの逆攻勢と見られますか。

―それは特殊地域といっていいと思う。自動車メーカーの本社ビルができたから、スナックよりマージャンクラブをやった方がいいということなんでしょう。

―台東区の方で、喫茶店の一部にちょっと段をつけてマージャン店にして、喫茶店の方も明るくしてやっている店がある。

―うちでもそうです。今はいっているママはスナックをやっていて、風営法が変わり、調理加工、お酒が出せるというので、うちへあがってきたんだから、従来のマージャン店ではつまらなかったが、これからは違うという転業者も多いんじゃないか。

司会  現実に、飲食店が店を半分つぶしてマージャン店にしようという話はどうですか。

―飲食店からは、ある程度の店の汚れもあるし、できにくいと思う。喫茶店とかパブからの変更は、意識もそれほどむずかしくない。

―飲食店は職人気質があって頭が固いから、飲食店からという形はないと思うがパブやスナックの経営者は頭がやわらかいから、これがダメなら次はこれという風に、すぐ変えられる。

―するとパブ、スナックからの転向は今後多いかも知れませんね。パブの場含、面積もちょうどいいしね。

ありうる大手の進出

兼業に意外な落し穴も

司会  兼業というと、喫茶店かブティクかわからないような店とか、ガソリンスタンドで注文販売のテーラーを作って成功している所などもある。兼業の形もいろいろ出てくるんじゃないかと思う。今マージャン店は飲食店との兼業しか考えていないが、もっとガラッと変ったのもできるんじゃないか。

―それは発想のやわらかい人が、採算が合うと考えれば出てくるかもしれない。

―そうなると、50店くらいのチェーンを構えている人とか、10~20店のチェーンを持っている人はまだ少ないが、そういう人達がふえてくると、違った業種になっていくんじゃないかという気もするが・・。

―一番波の大きかったボーリング場の場合、最初大きい所がバッとやって、あと農家の百姓さん達が自分の土地を売って作った。マージャンは、その逆の傾向があるような気がする。最後には中小企業でも大企業でも、いわゆる会社組織でマージャン店の経営に関与してくるという形が出てくると思う。現にでてきつつある。

司会  話は変わりますがマージャン店経営者でサラリーマンの平均給与所得額を上回る申告が3-4%ということだが、こういうことはどうなんでしょう。

―赤字申告で通った店が多いのでしょう。少なくとも今やっている人は利益を出してやっているわけです。しかし、大半の経営者は次元が低く、今までドンブリ勘定だったから、わざわざ申告しなくてもということだ。その数字には驚いたけれど、ああ、そんなもんかも知れないとも思うんですよ。

―僕は驚いた。ああいう数字を聞くと、サラリーマンがバカバカしくてマージャンなんかやめようという気にもなるかもしれない。

―でも我々は他人様が遊んでいる時間に精出して働いている。サラリーマンのように残業手当もない。まあ、隠すことは閻題外としても、高給であってしかるべきだ。

―高給を取っているはずのものが、実際には取っていないというのはおかしい。

―大半の人たちのレベルが低いんだ。

―大半が赤字申告というのは副業なんですよ。

―経費の出し方がへただというが、へたというよりドンブリ勘定だから知らないんだよ。

―うちは税理士さんに年間80万くらい払っているが、精神的には楽だ。

店員は若い娘に限る

あんなバアさんの茶は飲めぬ

司会  では従業員の問題ですが、一番の従業員というのはー。

―それせもう、若い女性ですよ。

―うちのお客さんで、おもしろい人がいた。お茶を出す時、熱いからどうしてもふちを持って出す。若い子がふちを持って出しても何もいわないが、年とったおばさんが持っていくとじっと見て「マスター、従業員の教育悪いよ、茶わん出すのにふち持って、あんなバアさんの飲めないよ」という。若い女の子の時は平気で飲む。そくらい違う。

いい子は時給2000円も

ほんとに役立つのは中年女性

司会  良かった従業員というのは、どんな感じでしたか。

―責任を持たせる場合は35~45歳。そのくらいの女性は人間ができているから、客のつかみ方がうまいし、言葉の遊びができる。それから、このお客さんはどこまで取れるか、突き出しのお金をとっていいか、300円でも500円でもパッとつけられる頭の機転というか、商売ができることですね。それをサポートするのは若い人で、仕事はできなくても花でいい。

―それと、若い子をつかむには時給を高くしなければいけない。今、平均時給1000円になっているが、2000円出せばもっと若い子がくる。2000円出して若い子を入れることは人件費の割合とか、おばちゃんや主任が「私はこれだけなのに、あの子は何もしないで2000ももらって」という不満やいろんなことがあるが、そこが解決できればね。

司会  1卓1時間分の人件費ですか―。

―今、マージャン店じゃなく普通の店で700~1000円です。その金額で集めようとするから、若い子やしっかりした人がこない。1卓分、うちの場合1600円の意識でやれば、必ず来るはずです。

―地域差に関係なく若い子はいいね。

―長い間やってきて、いろんな従業員を見てきたけれど、喫茶店出身の女の子が一番ですよ。まず接客態度がきちんとしている。それからリストがきくということ。出し入れがきれいで、トレンチがしっかりしているから、コーラなら10杯、15杯運んでもこぼさない。そういう子なら1卓分つぶしても価値はあるが、ただのマスコット的ではどうしようもない。

―それに、そういう子を入れても2-3カ月でやめていくからむずかしい。生活がかかっていないから、ある目的のお金ができたら、もうやめようということでね。

サービス向上が勝負

機械化で人件費かさむ

―若さが一番だが、基本的に大切なことはネアカじゃないと絶対にダメだ。

―うちの場合、1店舗に3人いるが、その3人にそれぞれ特長がなければいけない。もちろん若い人も一人ほしい。責任者も必要だし、深夜まで心おきなくできる人もね。それぞれの持分があって、うまく意気投合して明るくやってくれることを一番望んでいる。能力があったり、きれいであってもペアリングが合わないといけない。

―何卓ですか。

―l店は14卓で、3人に6時から9時の3時間はプラスー人。あと9卓の店2軒は3人ずつで、これで目一杯です。

―機械になってから人件費を余計にくう。手打ちの頃は1人10卓といっていたものね。

―サービスの向上をせざるをえないんですよ。

―黙っていても客が来た頃のサービスと、サービスしなけれは客が来ない状態のサービスでは全然違う。

―勤務時間が長くなれば、お客様一人ひとりの個性を知るというメリットが出てくる。うちの店は、3人の勤続年数が8年、6年、4年でうまくペアリングができているが、現実には2~3年業績が落ちている。僕は現状が最高と思っていても、ある程度の新陳代謝も必要なのかとも思ったりする。基本的には長くいてほしい。

―僕は常に思うが、経営意識のなかで、総売上高に対する人件費の比率が何しろ安い。とにかく経費をいかにして抑えようということばかり考えている。この考えをやめない限り、どんな新法が出ても、これからどうするかということをいろいろ考えても意味がないと思う。

―うちは総売上に対して人件費は25%ぐらいです。

―以前は、ーカ月の内最初の1週間分で家賃、次の週で給料、3週目で直接原価以外の経費を払い、あとの1週間が自分のもうけと考えてきたが、それがだんだん期間が長くなっている。

―だけど人件費を40%ぐらい出しても、原価がないんだから、やっていける店もあると思う。

大切な従業員の教育

麻雀店ジプシーはいらぬ

司会  そういう感覚で店を出すところが出てくるでしょうね。

―物を売って商売をしている人は、粗利30%という感覚だから、そういう人達からみると、できすぎだということになる。

―お客さんを増やしたいからスタッフを充実させるのか、お客さんが増えたからスタッフを充実させるのか。その点、この業界は消極的だ。本来、こういう悪い時こそ高い給料を払い、いい従業員を使って伸ばすべきなのに、悪いと、どんどん経費を抑えようとして、よけい沈滞してくる。

―支店をどんどん出していくと、自分だけじゃできないから自分に代るスタッフが必要だとなると、どんどん積極的になる。

司会  従業員の問題は重要だから、何か斡旋業というか、人材銀行のようなものも欲しいですね。それと時給を倍にすればくるだろうが、もっとマージャン店の良いイメージをPRしていくことが必要ですね。

―募集しても、どこかのマージャン店にいた人がやってくる。マージャン店ジプシーなんです。

―それは多い。僕は過去のキャリアのある人は、なるべく取らない。

―そうなると”フロムA”とか、全然違う媒体から取るしかない。

司会  そういう媒体も考えなきゃいけないということですね。どうでしょう、普通の水商売に比べて、仕事はきついですか。

―時間帯の問題だね。

―それと、お客さんが男ばかりというのも、女の子は本当にうれしいかというと、そうでもない。

―「タバコは何ですか」なんて聞いても返事もしない客もいるし。

―それは従業員教育が悪い。私は、タバコをさわって空だったら「タバコお持ちしますか」と、言わせる。その銘柄を持っていけば1回ですむし、お客さんも「気のつく子だね」ということになる。コートや背広もハンガーにかけたら裏のネームを見て名前を覚えさせる。お客さんだって名前を呼ばれた方がいいでしょう。無駄のない動きですよ。

―そういうノウハゥがない。組合・連合会でも従業員マニュアルみたいなものは全然ない。

―スカイラークなんておじぎの仕方まで決まっているんだからね。

『経営意識』の転換を

日和見だったこの一年

司会  結局、新法が施行されて1年経ち、何も変わっていないというより、経営意識を変えなくてはいけないということですね。

―まだそこまでいっていない。変えなきゃいけない

のかなあという段階だ。

―今年は徐々に変わるんじゃないか。

―この1年は皆、ずるいけど日和見だった。決断力の早い、前向きの人は動いていた。その人の出来、不出来を見ていると思う。

司会  動いた人は、ある程度の業績を残したという話でした。最初に動いた人はいつももうけている。先行投資をしながら後からくる人を引っぱっていくと、業界は良くなる。そうすると良くなった時点で、一番先に自分たちが利益を受けることになる。

―連合会の本部へいっている役員は、情報キャッチが早い。自動卓が出た時も、情報の少ない人はおっかなびっくりでしょう。情報も早くキャッチして、これからはこういう時代だと自動を早く入れた。そこへお客さんが集まるのをみてパッと普及したが、それと同じだと思う。例えばうちが厨房を作った。ラーメンもカレーも安く提供して、あそこがうまいといわれる。満卓になり、他へこぼれてラーメンをとってもらって伝票をみると450円。あんなラーメンで450円かという不満がでれば、厨房設備が必要になる。やはり、先取りした者が勝ちということになる。

―うちの隣の店は厨房なんかめんどうくさくてイヤダといっていたが、ここへきて全部改造した、うちと隣の店と両方に行っているお客さんに「自分の所で作ったらいい」といわれるんですね。それでやってみた結果、よかったわといっている。

―経営者の感覚がマイナーなんだね。自動卓の価値感も重要だが、従業員もそうだが、それにもましてマスターの頭が一番大事なんだ。

―今日集まった皆さんが、地区のなかで同業者の意識を変えていかなければいけないんですよ。

―例えば、経営者だけを集めて懇親会や旅行をやるのでなく、従業員のためのイベントはぜひ必要だと思いますよ。

司会  結局、設備を改善していくとか、サービスを向上するとか、人件費を余分に出して従業員の質を上げるということも、景気の高揚策になりうる要素はもっているということで、やはり自分たちの姿勢を変えていかないといけない、ということですね。マージャン店経営者が、初心に戻って新鮮な意識で取り組むことをやっていかなければいけないということですね。

(完)

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