追憶の麻雀 第2回『真夏の夜の夢』

追憶の麻雀

麻雀新聞第4号 昭和52年8月10日 より

六階建の都雀連会館で女性理事長と会見

東京駅から新宿に向う。お茶の水を出て、市ケ谷を過ぎた頃、右側をご観願いたい。緑に包まれた高台の中程に、瀟洒な6階建のビルが見える。表側は黒の人造大理石、側面は白一色である。通動のサラリーマン達が、黒パイを立てた様な建物だと言い合って、満員の電車の中で、もう今日の仲間を頭に描く。無理もない。近づくにつれて、正面に燦然と輝く金文字。「都雀連会館」である。

ちょっと、立寄って敬意を表しておこう。四ツ谷駅から歩いて五分、立派な玄関を入ると、一階はロビーと和洋レストラン。2階は麻雀用具と生活必需品の販売場で、共に、都雀連協同組合の直営である。3階は事務室、4階は小集合場と麻雀教室、5階が大会議室で300人は収容できそうだ。六階は理事長室、長老室、理事室、貴賓室になっている。

先づ、理事長室を訪ねる。

理事長は、予想に反し、大変美しい女性であった。代々、理事長は男性と聞いていたが、最近、男性と女性が交互に就任することになったらしい。女性ならではの商売であるから、何の不思議もない二十年前は、女性の副理事長さえいなかった、と閲いて驚いた。近年は女性も暇が多くなったので、組合長や理事への進出が目につく。昔は、カアちゃんに店を任せて、亭主は、やれ理事会だ、委員会だと走り回っていたが、近年、店舗が大型化し、支配人や店員を雇える様になったので、女性の進出が可能になったのである。現理事長も練馬で五十卓を支配する中企業の女社長である。

おいしいコーヒーを頂きながら暫く、業界の推移や、現況などを拝聴しよう。

「理事長、ここ10年位で、業者数は半分、卓数は3割程減っているそうですが?」

「その通りです。20年程前はですね。不景気な上へ、やたらと業者が増え、物凄い過当競争だったのです。一つのビルに小さな店が3つも4つも出来て、家具屋のコマーシャルじやないけど、二階も雀荘でございます。三階も雀荘でございます、だったんです。又、都雀連も、増えた店を、どんどん組合に加入させ「競争をしてはいけない。少い客でも仲よく分けなさい」と呼んでは、業績が上らないので毎日会議会議で朋け暮れていたんです。昔の殿方って、案外馬鹿正直だったのですね。商売は下手なくせに……。

その内、これでは、どうにもならないと気付いて、新規開店の締め出し策を考えたんです。」

「一体、それは、どんな方法だったんですか?」

「自分で街を歩いてご覧なさい。直ぐわかるから…。とに角、それからは、業者は増えないし、お客は増えるで、みなさん裕福なもんです。お蔭で都雀連も楽になり今年の予算は20年前の5倍ですね。昔は、金がなくて、役員は皆、名誉職の手弁当。苦しまぎれに、少しでも沢山寄付を貰らおうと業者の御機嫌をとり過ぎて尻に敷かれ、スッタ、モンダした事もあるんですよ。なにしろ100名以上の組合員を持つ組合でも、分担金は1.2万がやっとで、2割も上げようものなら、喧々諤々だったそうですから、今から思うと、想像も出来ませんね。今ですか。勿論、月給は呉れるし、実家用車で送り迎えですよ。当時の顧間や相談役の皆さんが今日は全部見えてるから、後で長老室へ行って、非惨な時代の回顧談でも聞いてあげなさい。私には日に三度も聞かすんだから、きっと喜びますよ。ホホ・・・。」

仰せに従って、長老室を訪ねるとなる程、あの懐しい顔が沢山揃つている。顧問だけでも十名以上である。「皆さんお揃いで、今日は長老会議ですか」と聞くと「いや。今日は、総理が新任の挨拶に見えるんで、集ったんだよ」とおつしゃった。この辺で、都雀連に別れを告げて実地見聞に出かけよう。

医務室からサラ金まで完備 共同経営の大型店

先づ、手近な新宿の目抜き通りへ向う。なるほど、昔の様に、小さな雀荘が点々と並ぶ風景は見られない。その代わり、時々、大きな雀荘に行き当る。しかし、昔の様な、「麻雀」という看板は見当らない。今の若い人は、あの看板を見ると自分が堕落している様な気分になるというので、便はないことになった。その代り白地に若草色で「いちょう」の葉一枚を描き出した看板が取付けてある。理智的で高級な遊技という意味を表しているのだそうだ。この看板が麻雀荘であることは、もう、みな知っている。理髪店の看板と同じである。

中堅どころの「シスター」という店へ入って見る。この店は20階建ビルの1階から4階までを便用している。一足入ると、豪華なロビーがあり、喫茶と兼用になっていた。壁には、大きな電子掲示板があり、各階毎の、予約済卓と便用卓はランプがついている。好きな空卓のホタンを押すと、席を予約出来るのだが、押した時間から、場代をとられる。ピンクの制服を着た可愛いい娘に案内されて、エスカレーターで3階へ行く。3分の1は、休憩室兼応接室となっていて30卓位ゆったりと並んでいた。4卓に1揃の割で、おしぼり、お茶、コーヒー、ラーメン等の小型自動販売機が置いてある。つまみも自販機で買うのであって、もう、おばさん豆!という調子にはいかない。自動式雀卓があるかと思ったが一台も見当らなかった。

卓や椅子は20年前と大差はない総て、少々、大きくなぞいる様だ。場代は1時間、10円と掲示されている。丁度、15年前デノミが行われ、100分の1になったので、1000円ということである。しかし物価は5倍になっているから、昔より2割位安くなっている勘定だ。ややこしいから、今日は昔の単位にしよう。

まづ、1万円札を自動貸牌機に入れて、牌を借り出す。返すとき、少しでも傷を付けていたり、故意に汚しておくと、自動鑑別装置に見破られて、1万円が返って来ないから、牌をたたく人はない。牌は自動清浄機を通るから、奇麗だったが、少し大きくなり、両面が同じR面になっているので、積んでめったにくずれない。サイズはそのままだが、点棒は円型で色別になっている。この方が受渡が早くて、間違いが起らないからだ。若社長のAさんに少し聞いて見よう。

「この店は、1階から4階まで使用していて、100卓あります。昔私の父が、この辺で小さな店をやっていたのですが、近くに次から次へと新しい店が出来て、共倒れが目前に迫って来た。それで、何とか、合理的に新現開業を閉め出す方伝はないかと、都雀連とも相談したんです。結局、簡単に真似の出来ない店にしたらという事になって、この辺の業者十数軒が合同して、株式組織にし、一つの大きな店舗にしたんです。勿論、集って大きくした処で何の効果もないと思うでしようが、目的はそこではなく大店舖の経費減を利用して、設備、サービス面を充実しました」

「ご覧下さい。喫茶室、電話室、更衣室、ロッカー室、医務室、シャワー室からサラリーローンまでありますよ。こうなると、お客さんは小さな店は不便でしようがないから行きませんね。又、新規開店しようとしても、うちの店に対抗するには、軽く、2億は掛るから一寸、出来ません。ですから、目下、この辺の独占企業で楽なものです。株主は皆、昔の同業者ですが、今では、持株が3000万円位に増え、配当だけでも月、50万以上ありますよ。料金も昔より安いでしよう。これ位で十分ですよ。大型店舗は経費が割安になるから、客さえあればゆっくりしたもんです」

「昔、競争が激しかった時代、ただでサービスしていた、おしぼりとかお茶菓子など今は全部有料ですからね。大体何でもただでサービスすりゃよいと思ってたのが間違いですよ。忘れ物とりに行ったって、国鉄さん、入場券を買わすでしょうがワハ…」

「ところでAさんはゴルフ場も経営していると聞きましたが、20年と変わりましたか?」

「変わりましたね。当然ですよ。今のゴルフはホールの規定打数が多くなりました。例へば昔パーファイブだったのはパーセブン位にね。そして一打毎の玉の停止範囲を定めたのです。ですから、昔とちがって、やたらと、強く打つ心要はなく上手に打たなければならない。又、グリーンは起伏が多くなり、パットが難かしくなった反面、ホールの直経が大きくなりましたね。どうして、こう変わったのかと言いますと、ゴルフはもう若者向きではなく、老人向に変わったからなんです。老人の数がうんと増えたのに、今までのルールでは体力が無くて面白くないというわけで、それに合わせたのです。パチンコだって、随分変りましたよ」

丁度、少し疲れたので、ひと休みに、パチンコ屋へ入った。なる程、20年前とは違った処が多い。

昔は、手でハンドルを操作したり10円玉を挟んで叱られたりしたものだが、昨今は、足でアクセル式になっている。これは、主婦の愛好者が増えたので、子供を抱いたり、編物をしながら出来る様にしたらしい。反、玉の出方も違う。昔は一回に15個出たが今は5。しかし、同じ処へ二度続けて入ると一度に100個である。1日に1回でも、100個出た時は1年のストレスが一度でスッ飛んでまうとか、あいかわらず、麻雀の強敵であることに変わりはない。

 

美人ママと寛ぐなら 和風小型店

さて、中心地区の大型化は大体納得いったが、周辺地区は、むしろ、逆に小型化していると聞いたので、杉並のB店を訪れた。

入口はそれ程でもなかったが、一歩入って驚いた。その美しい事、優雅な造作、落付いた和室に高級な卓が据え付けてある。卓数は5卓であった。ママの丁寧な説明に耳を傾ける。

「わたし共の店は、元は10卓あったのです。ところが一昔前から、駅の近くに設備のよい大型店舗が出来て小さな店は皆、駄目になりました。こちらは、大型には出来ないし、いろいろ考えた末、いっそ逆に卓数も減らして豪華にしたわけです。ですから、もう数で勝負するわけには参りませんから、質でいらっしゃい、というわけで大型店が洋風なら、こちらは和風あちらが若い人向なら、こちらは年輩者や、旦那衆が相手。そしてセルフサービスで来るなら、こちらは、上げ膳、据え膳式ですね。ですから、料金は、大型店より、うんと高く頂いてますよ。それだけの価値があるんですから。どこでも、駅の近くはオートメ式大型店で料金は安く若い人向。奥の方は、殆ど、こういう店になりましたね。お蔭で、昔の様に、オイッお茶なんていわれないし、気持よく儲けさせてもらっています。」

「ところで、風営法は、大型店舗は外し、小型店だけ存続ということになっていますが、これについてご不満はないですか?」

「不満はありません。大型店は人手も多いし、目が行き届くから任せておいてもよろしいでしょう。小さい店は、やはり、不用心ですから、残しておいて貰う方が安全でいいですね。深夜まで帰らないとか、酔っぱらったりは困りますからね」

なる程、これで、客層の分布は判明した。一般は安くて近代設備の大型店。年輩の旦那連中は、料亭気分の小型店へ。そうすると、Tシャツやステテコ族はどこへ行くのだろうか。やはり行き先きはチャンとあった。駅周辺の裏通りに、僅かに残っている小さな店である。

よい客を得ようとすれば、よい店でなければならない事は、20年後も同じである。

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